掌編小説・『健康法』

夢美瑠瑠

掌編小説・『健康法』

(これは、2019年の「世界保健デー」にアメブロに投稿したものです)


        掌編小説・『健康法』



 おれは、天然竜虎理心流の道場の師範代の歓喜天福助というものだ。

  

 この道場は自彊術とヨガと気功とピラティスと、薬膳とかその他多くの健康法を取り混ぜて独自の方法論を確立したおれ主宰の健康道場で、末期のがんの患者やら、治癒不能の難病患者、その他医者に見放されたいろんな病気のやつが藁にも縋るという感じにやってくるところなのだ。


 病人ばかりでなく、極端に肥満した女性や、吃音に困っている人、精神病や不眠症や、はてはモテなくて困っている独身の男などまでやってくる。おれには長年の瞑想修行で臍下丹田から湧出するESPパワーが備わっているので、訪れた患者たちと少し話をして、体内の気の流れを実検してみるだけで、麻原某のように、すぐに、「あなたはこうしなさい」というはっきりした処方箋を与えてあげられるのだ。


 そうして、実際にそれで治っていく患者が多いのである。


 おれは勉強家でもあって、東洋医学にも詳しい。だから、気が陰で、虚弱な人には高麗人参と自彊術。五陰盛苦で、気が休まらないような人には瞑想とか自律訓練法とカルシウム剤やメラトニン。

 がんの人には霊芝やら野菜スープ、笑いヨガ。引きこもりの人には光療法や動気功、武術の訓練。…


 こういうようにきめ細かくケースバイケースに治療指導をしていくので、評判も良くて、口コミで人気が広がって、わが道場はかなり繁盛しているのだ。

 要するに「元気と健康」に、人間をしていくにはどうすればいいのか?

 そういうノウハウをおれは蓄積していて、日々の経験と勉強と精進で、そういう知識やら方法論は洗練され、進化していっている。

 そうして、だんだん良くなる法華の太鼓、みたいに歓喜天健康道場の信者や支援者は増えていく一方なのである。… …


 健康法の極意は、自然治癒力の発現、励起で、西洋医学的な個別射撃で病巣を攻撃するが、身体自体の免疫力とかを弱体化する治療法は邪道だとおれは思っている。

 がんの治療に、抗がん剤よりも、患者を大笑いさせて、ナチュラルキラー細胞を活性化させるほうが効果がある、そういう話におれは深くうなずく立場だ。

 健康雑誌のたぐいはまあ欠かさずに読んでいるが、要するに体を温めて、運動をして筋肉をつけて、免疫力を高めることが健康の秘訣かと思う。

 よく眠って疲労を取って、これも自然治癒力みたいなものを高めるのがいいということかと思う。元気というのがやはり健康への近道なのだ…


 できるだけ、身体を緩(ゆる)めるのがいいと、これも真理かと思う。

 酒も心と体をリラックスさせるので、百薬の長と呼ばれる所以になるかと思う。

 そういう健康哲学を抱懐しているおれには、現代のストレス社会、過労死するほどに働かされる社会、「現役世代」が、労働力やら時間やらを収奪されて、誰も文句も言えない雰囲気にされているような病気社会は本末転倒が馬鹿馬鹿しすぎて、耐えられないほどに気持ちが悪い。

 で、統一地方選挙のある日に合わせて、「地球も社会も健康に!エコでロハスな意識の高い社会を実現していこう!」というキャッチフレーズを掲げた「健康増進党」というのを立ち上げて、有権者に訴えるべく、候補者をたくさん擁立して地方議会に送り出そうと目論んだのだが、既成政党の支持者には党の主張の意図とか趣旨が十分理解されずに、全員落選した。

 

 日本も大衆も全然まだまだみたいだが、おれはおれの主張する社会の改革を自分の道場を通じて進展していって、「健康増進党」を、国政の第一党にすることを目標に頑張るつもりだ。

 そういう道筋でいくと、もしかすると人類の共通の夢である、不老長寿というものも実現可能になるかもしれない。ユートピア、桃源郷の伝説というものを、全てのくだらない政治やら経済やら権力やらの闘争をやめさせることでリアライズさせる。

 そういうことこそが人間にとっての本当の幸福を実現させる、本来的な「思想」、イデアの派生語の"イデオロギー"なのではないかと思う。

 

 今の社会はどこかおかしい。われわれはみな、何者かの悪意で、巧妙に騙されているのに気づいていないだけ、おれはそう思っている…

     

<了>

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