砂傘拾って今日は曇天

常闇の霊夜

人でなしは人であり


「……傘が埋もれてら」


曇天曇りの空、絶え間なく降り注ぐ偽りの太陽。世界はと言うと無慈悲に、無作為に回り続けている。傘はいらぬが拾ってしまったのだ、それは仕方が無い。


「さて、届けに行くとしましょうかね」


ここは砂漠、そして向こうには一つの避暑地。今日は江戸の街、名は遊郭。さぁさ今宵出てくる化け物はいずれ向こうになりやるや?

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「派手だねぇ、今日もこの街は」


傘を差しながらぶらぶらと、行く当てもなく歩き続ける。乾いた肌には女子の柔肌が一番だというのは分かるが、そもそもこの店は初めて来た故、まずそう言う事は出来ない、一見さんはお断りなのだ。遊郭。


「どうだい可愛い奴いっぱいだよ?」


「いや、遠慮しておくよ」


「そんなこと言わずに……あいや、お侍さんだったか。こりゃ失敬」


この世界は化け物が住み着いている。わんさかわんさか。そりゃもうそれを退治する者が職業と呼ばれる程に。つまるところ私はお侍さんなのだ。二刀の対になる刀を腰に下げ、たまに路銀を稼ぎながらどこに行くでもなく歩いているのだ。


「せめて甘味くらいは食っていこうか」


「へっ頂きー!」


そんな事を考えていると、刀を盗まれてしまった。全く、こんな世の中刀を盗むと言うのは自殺行為に等しいというのに。だが相手もそれを理解しているのかいないのか、足が速い速い。全く。


「こいつは高値で売れるぜー!」


「悪いが返してもらえないか?」


その程度では走った事にもならないのに。あからさまに何かあったんだろう、肌が毒に侵されている。全く笑い事ではないな。そう言えば刀は既に返してもらった。当然だ、私の物だぞ?


「あ!?おいふざけんなそれは俺の物だぞ!」


「あぁ、実はこの刀な……」


「……は?刃がねーじゃん!?じゃぁなんでそんな物質を後生大事に抱えてたんだよ!?」


「商売道具だからな」


私の刀に刃は存在しない。刀とは到底呼べない物質だろう。そもそも取られたところで問題は無かったのだが……しかし、自分の物だ。であれば取り返す理由は存在しない。


「チッ、じゃあしょうがねぇよ。そんなもん貰っても二束三文の金にもなりやしねぇ」


「悪いね少年君。ところで……それは『不義ふぎ』に噛まれた傷だね?」


「……だったらどうするんだよ?」


「なに、これも何かの縁だ。退治して来てやろうじゃないか」


「オッサン正気かよ?言い方は悪いけどよ、そんな鈍以下の物質を腰に刺してる奴なんか信用出来る訳ねぇだろ?」


「確かにね」


不義。それはこの辺に生息している毒を持つ化け物である。普段は土の中に生息している奴だが、定期的に外に出てきては人を襲う。その理由は増えるためだ、どの生き物も当然同じような生き物ばかり。その中でもこいつは特異な増え方をする生き物。


人間に寄生し全身を自らの苗床に改造した後体を食い破って出てくる恐ろしい化け物なのだ。一応助かる手段はある。金を積んで高い医者に任せるか、本体を殺すかの二択である。


「どうやらここらは既に汚染されているようだからな」


街をぶらぶらしているとこういうのも分かるんでね。どうやら数十人以上もの人間が寄生されているようだ。これは危険である。このまま放っておけばこのオアシスが消滅しかねない。


「と言う訳で依頼があるか確かめに来た」


「なんて野郎やあんた……まぁええ。ともかく倒してくれるってんなら文句はないわ。……ただ、みりゃ分かるやろ、誰がどれに寄生しとるかさっぱりや、お手上げやな」


「つまり依頼はあるんだな?」


「まぁあるにはあるけど……おいおいおい。まさか全滅させてくるとか言わへんよな?」


「無論その通りだ」

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さて、今私がいるのは遊郭の女がいる場所だ。何、遊びに来ただけだが?そもそも不義と戦うと言えその前に女を抱きに行っても構わないだろう?路銀の使い方と言うのはその程度で構わんだろう。


「あら、お客はん?」


「ま、そんなとこかなぁ……」


「ところで武器を所持するのは違反やけど……」


「あぁ、これ武器じゃないから」


どうやら納得してくれたようだ。……さてとりあえず彼女の飲み物に睡眠薬を入れて……よし。これでしばらくすれば寝るだろう。


「ん……なんか眠くなってきましたわ……」


「じゃぁ先に寝てていいですよ?」


「そうさせていただきます……」


さて……他の部屋を見に行くとするか。アレだけ不義に侵されていながら誰も動かないというのは中々異常な光景、明らかに何かがあるなここは。……見つからぬように移動しなければな……


「ん?何かいましたか?」


危ない危ない……小間使いが普通にいたとは……思わず天井に張り付いてしまったが……まぁいいこのまま天井を進ませてもらう。とりあえず気になる部屋は二つ、花魁がいる部屋か給仕室の二つだ。


「……まずは給仕室に行くとしよう」


しかしまぁ……話は聞いておくべきか。何か奇妙な事とか起こっていないだろうか?給仕室にやって来たぞ。


「最近の花魁の容態どう?」


「まぁそんなに悪くはないけど……不義に噛まれたって言うのは可哀そうよねぇ……」


「そうねぇ……それでも仕事をしてくれるというのはありがたいけどね……」


成程。花魁が不義に噛まれたと。しかし仕事を……?妙だな花魁くらいになれば普通に薬を買えるはずだが……?うーむ……あの男花魁の部屋に行くのか。……悪い。


「うっ」


「すまんこれも使命の為だ」


こいつの気絶した体は厠に突っ込んでおいて……服を着て持っていこう。悪いなコレも調査の為だ。ここに料金置いて行くから許してね。


「来はりましたかお客はん」


「あぁ。……ところで不義に噛まれた割には花魁の仕事ができるみたいだが」


「これも仕事やからね。ところでなぜ刀を腰に?」


「これ刀じゃないからな」


……いやな予感が的中してしまったか。……この女は既に不義に乗っ取られている。しかしまぁ面倒なことだな……恐らく既に足元にも不義が集まってきているんだろうな。そしてこいつがいたからこそ……誰も不義に関して何も言わなかったんだろうな。


「ところで……」


「何でしょうか?」


「お前らにも人並みに知能がある事を忘れてたよ」


こういう時の為に隠し持ってた油をぶちまけ火を付ける。瞬く間に遊郭に燃え移る火、そしてそれから逃げるように出てくる不義の集団。こいつらやっぱいつ見ても気色の悪い姿をしているな。……芋虫のようだな。


「なっ何をする!?」


「ここはもう終わっている。避暑地と言うよりはそれに対する蟻地獄のようだ」


「がぁぁぁぁ……!もう知らねぇよ!この野郎苗床にして一生地獄を見せてやる!」


遂に本性をさらけ出したな。こいつらは人間に寄生すると蜘蛛のような姿に変化する。普通の剣士では剣をへし折られそのまま殺される……なんで人間に寄生している奴は本当に厄介だ。


「鈍な刀を持ってた事を死ぬまで恨むんだなぁ!」


「……」


確かにこれは鈍だ。と言うよりも鈍と呼べる程度の物ですらない。だがこの刀はかなり特殊なものと言われていてな……偶然、俺の家から発掘したものだ。あまりにも危険なんで私が持っているが……普段は刃が無い刀、しかし戦闘する時にこの刀は真の姿を見せる。


「光!?それがどうし」


「半分貰うぞ」


「ッガァッ!?」


この刀はレーザーソード。よく分からないが……もはや刀と呼ぶには強すぎる。私も出来れば使いたくはない物だ。


「なんだその刃は!?私の体は鋼鉄でも切り裂くことは出来んのだぞ!」


「つまりこの刀がお前の体を上回ったという事だ」


実際、このレーザーソードと言う刀は鋼鉄すら切り裂くほどの物である。その代わりと言えばなんだが自分の体も切れてしまう事があるためかなり恐ろしい物となっている。慣れないうちは何度も自分の体を切り裂いたことか……


「ぬぐぐ……こうなればここにいる全ての人間どもを殺してやるとしよう!」


「不義の毒を暴走させるという事か」


「どうだ!これでどうすることも出来」


「私の仕事はお前を殺す事だけだ。……他の人間がどうなろうが知った事ではない」


さて、これで不義の毒は消えるだろうが……いやしかし。つい燃やしたが、凄い燃え移っていくな……。しかしこんな不義の巣と同じような場所をそのままにしておくこと自体おかしな話だからな。

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「おい俺たちの遊郭が燃え尽きちまったじゃねぇか!」


「それに家の花魁もいなくなっちまったよ!」


「誰だこんな事をしたのは!」


なーんか皆騒いでんな……いや遊郭が燃えたんだから当たり前か。と言うよりも俺からすれば不義の毒が消えたことの方が気になるんだよな。そう言えば昨日のオッサン、不義を倒すとか言ってたけどな……


「ってオッサンじゃん!まだいたのか!」


「いや、今から帰るところだ」


「えー……なぁオッサン。俺もついて行っていいか?」


「……脈絡が無さすぎるんだが?」


「うーんなんというかなぁ……俺、この街に愛着無いし。それにオッサンアレだろ?金遣い荒いタイプだろ?」


「そう言われてしまうとそうだとしか言いようが無いがな……」


まぁこのオッサン結構金持ってるみたいだしついて行ったらいいことあるだろ!それに遊郭が燃えちまったんでもう稼げねぇしな!


「ところでオッサン名前は?」

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「私か?私の名前は『永久とわ歴史れきし』だ」


「そうか!ちなみに俺の名前は『織田おだ信長のぶなが』だ覚えとけオッサン!」


「あぁ分かった。……ところで男か?」


「俺?女だけどなんか悪いかよ?」


「いや、何でもない。……ついてくるなら構わないぞ」


「やったぜ!っておい永久のオッサン待ってくれよ!」


そう言えば、結局この砂傘の持ち主は分からず終いだった。ま、どうせ持ち主は見つからぬだろう。であれば私が使っても何も問題あるまい。それにしばらくは楽しく過ごせそうだ。


「ちなみにこっから先に行くと砂鮫の船があるぞ!乗ってみようぜ!」


「楽しそうだなそれは。……どれ。行くとするか」


「おう!」


今日も果て無き旅は続く。次の旅路はどこへ行くのやら……その辺は、きっといずれ分かる日が来るだろう。今日も太陽は我々を刺す。傘が無ければ焼けてしまいそうだ。

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砂傘拾って今日は曇天 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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