扉を開けば
隣で真剣な顔をし始めたやつらは置いておいて、とりあえずエア君達に声をかける。
「……とりあえず、これ通じてるんか?」
「わからないです。多分ただのドアですよ」
……なるほど。ただのドアと。
まあ、そりゃ扉が通路のど真ん中に建てられているだけなのだから何処かに繋がっているわけもないだろう。そう考えておもむろに扉を開けば――。
――やはり、ただのドアだった。
だが、おかしな話じゃないか?
ただのドアをこの空間に生じさせることが出来たのだ。どこかに接続できて然るべきだろうと思っていたのだが。何が足りないのだろう。たしかにこのドアは夢のスイッチを切り替える可能性を秘めているのだが。
そんなことを考えながら、ドアをガチャガチャと動かす。無論、そんな俺を怪訝そうな顔で見ているエア君とラット君を無視して、である。一見するとキャパシティーオーバーで壊れたように見えるのかもしれないが、こちらは真剣だ。
「んー……なんかな」
ブツブツと呟きながらそれを繰り返せば、もうそれは立派な精神異常者。まさしく21世紀の精神異常者とでも言うべき状態である。そんなことを考えれば、脳内には人間椅子の伝説のライブの映像が流れてきて。
――次に扉を開いた時、目の前でそのライブは開催されていた。
「――――は?」
流れ出す爆音に全員が扉の先を覗いた。それもそうだろう、これは完全にライブで、現実と変わらない音と振動が伝わる。攻撃的なギター、抉るように押し上げるベース、鼓動に重なるドラム。あの独特なボーカル。完全に人間椅子だ。
「……どういうことですか?群馬さん」
そう聞いてくるエア君の隣には呆然としているラット君。
「ほお、やるやん。じゃあ色々出来るってことやな」
ズリキチは一つの解法を手にしてしまったようだ。
だが、そんなことは気にならない。
繋がったという事実が重要なのだ。
確かめるように、一度ドアを閉める。完全に閉まりきることで音が消える。
そして、次はbring me the horizonがアルバート・ホールで行ったライブ映像を思い浮かべる。これは敢えて空中をイメージした。
たった一瞬で良い、完全に映像化が出来たと感じたところで扉を開く。
――すると、またそこへと繋がった。
しかも、空中に接続していた。
これが何を意味するのかを理解するのに時間はかからない。
この扉は、リアルタイムに空間を繋ぐ橋となっている。正しくは”想起された世界”だ。その世界のどこに自分の視点を置くか次第で、出現場所が変わることもわかった。事実、扉を隔てて手前側は地面だが、扉から身を乗り出してみればそこは空中である。
そこまでを確認して扉を閉める。
最後に、先ほどのアルバート・ホールでのライブを脳内で映像化した後、その映像がぼやけたタイミングで扉を開く。
すると、ぼやけていた部分が勝手に修正されていた。
「んー……?」
正直、勝手に修正されないものだと思っていたのだが。
しかも、その修正は間違った修正で、本来のものとは違う。
そんなことを考えながら、今度はその間違った内容を書き換えるようにして、現行する映像をその地点から目を逸らした状態で書き換える。ギターの色とボーカルの髪色を新しく考え、強く思い込み、改めて見る。
すると、その色に修正されていた。
「あー……なるほど」
思い込みの力とはよく言ったものだ。
無論、此処がそんなワイルドカードを許容した世界だということも相まってだが。
となると、これはますます夢だと考えて良いか。
――でもそれなら。
扉を閉めて全員の方へ振り返り、告げる。
「なあ、ちょっと実験に付き合ってくれんか?」
Twitterian Wonderland 星野 驟雨 @Tetsu
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