第2話
「いつもいらっしゃってますね。絵描いてるんですか?」とかいきなり会話が始まったりはしない。現実では。
妄想の中でその後のスマートな受け答えを練習している。
「ええそうなんですよ。家だとなかなか集中できなくて」とか。
ここはチェーン店。店員と客の距離感はマニュアルによって隔てられていて、その安心感を求める者も多い。お客さまと店員さんはそれぞれ記号と化し、どこにでもある光景を構成する。ここでいきなり恋が始まったりはしない。普通は。
彼女がいたことはない。いたとしても、ナンパで始まった関係でもない限り、コーヒーチェーンのお姉さんに話しかける方法なんてわからないままだろう。
アプローチの方法がわからない。
誰かに相談するわけにもいかない──キモいでしょ。
相談せずともわかる。妄想野郎で、僕は、キモい。
ただ妄想が広がる。
「ええそうなんですよ。家だとなかなか集中できなくて」
「プロの方ですか?」
「ええ一応そうです」
「えーすごい! わたし初めてプロの絵師? の方、会いました!」
「ははは、大した者じゃありませんよ。どこにでもいるイラストレーターです」
「学校とか通われてたんですか?」
「一応美大に通ってました。成績は悪かったんですが」
「えーすごい。ちょっと絵、見せてくださいよ」
「えーどうしようかな」
妄想なら広がる。
忘れた方がいいのかもしれない。ネットで「近所のコーヒー屋さんにかわいいお姉さんいた」と報告して終わりにするのが一番いいのかもしれない。
あるいは、妄想を作品に昇華しようか。それがいいのかもしれない。
イラストレーターのぼくはコーヒーチェーンのお姉さんに恋をする。した。 爪木庸平 @tumaki_yohei
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