◎
「あ、まずいかも」
コンビニを出ると、入って数分しか経っていないのに辺りが暗くなっていた。空気もどんよりと重みを増している。
もう八度目ともなれば流石にわかる。
俺はリュックから青い折り畳み傘を取り出した。
「どうしたの?」
文月さんがそう言ってこちらを覗き込んでくる。
そんな仕草もかわいい。これはまた明日理人に教えてやらないと。
そんなことを思いながら俺は傘を開く。パラボラの中央には周りと少し色の違う生地が穴を塞いでいた。
それを見て、俺は彼女にバレないように小さく笑う。神様はやっぱり俺の味方だ。
「入って。夕立が来るよ」
俺は傘漏斗を逆様にして彼女の頭上に掲げた。
定員が二人になるように、文月さんは一歩だけこちらに近付く。すぐ肩が触れそうな距離に立った拍子に目が合って、俺たちは少し笑い合った。
ぽつりぽつりと傘の表面で雨粒が弾ける。
暗い夏の影の中を二人でゆっくりと歩き出す。
「……あの、文月さん」
「ん?」
俺が名前を呼ぶと、彼女はこちらを向く。
この物語がどんな結末を迎えるかなんて神様にしかわからない。
でもそれを続けていくのは俺たち自身で、そのためにはきっとこれから何度も恐怖に立ち向かわなきゃいけないんだろう。人生は大変だ。
それでも、その先の。
傘の正しい使い方を知った俺たちは最高に幸せで。
「手、繋いでもいいかな」
「……うん」
――最高に青春してるんだと思う。
(了)
逆様パラボラ 池田春哉 @ikedaharukana
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