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「聞いてくれ理人。俺は文月さんのことが好きで好きで仕方ない」
「知ってる」
「なんで知ってるんだよ」
「昨日も一昨日も一昨昨日も言ってたからだ」
どうしたら快適な読書タイムが戻ってくるんだと言わんばかりの顔をする理人はそれでは物足りなかったのか実際に「どうしたら快適な読書タイムが戻ってくるんだふざけんな」と言葉にした。彼の手元のハードカバー本も怒ったかのように表紙を尖らせている。物騒な本だな。
「俺そんなこと言ったっけ」
「表現は違うけどな。昨日は『文月さんの笑顔は今日もかわいい』一昨日は『文月さんの笑顔は今日も素敵だ』一昨昨日は『文月さんの笑顔は世界の絶景に登録されるかもしれない』」
「ベタ惚れじゃないか」
「その通りだろ」
理人はページを捲る。
文月さんに告白して付き合い始めたあの日から俺は理科室に行っていない。
元々理科室に通っていたのは校舎の最上階にあって空模様が見やすかったからというだけだ。積乱雲を探す必要がなくなった今、あの部屋に俺が行く理由もない。
「あと何回お前は『文月さんの笑顔は世界平和の一助となるかもしれない』と言うつもりだ」
「それは言ってないだろ」
「どうせいつか言うんだろ」
ページから目を離さないままに彼は言う。
理人があれから夕立の詰まった五本のガラス瓶をどうしたのかはわからない。そもそもどうして彼が俺の告白に協力してくれたのかもわからなかった。彼の手元で開かれている本が最近話題の青春小説であることが何か関係してるのだろうか。
……まあ、何はともあれ。
俺はこいつに言っておかなきゃいけないなと思うんだ。
「ありがとう」
「謝辞はいい。感謝は以後の行動で示せ」
理人はいつものように事務的に言って、俺は少し迷ってから答えた。
「じゃあ幸せになる」
「それでいい」
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