「うひー、さみーな」


 緑のたぬきを食べ終えて外に出ると、てつくような冷えこみが私たちを出迎えた。

 しん、と空気までが寒さでじっとしているかのように静かだ。車通りも、元旦とはいえ深夜だからほとんど通らなくなっている。


「ダシ飲んであったまっておいて正解っすね」

「だな。こりゃとっとと帰ってふとんに入るしかねえな」


 言って、センパイは手をあげる。


「んじゃ上埜、おつかれ。今年もよろしくな」


 そして背を向けようとするのを――私は声をかけて引き止める。


「ねえセンパイ」

「なんだ?」

「今から初詣に行かないっすか?」

「初詣? 今から?」

「っす」


 うなずくと、センパイは自分の腕をさすって寒そうな、そしてめんどくさそうな仕草を見せてきた。


「別に今からじゃなくてもよくないか? バイト明けだし、家に帰って一旦寝てからでもいいだろ」

「それ、絶対起きたら2日になってるやつっすよ」

「う、たしかに」

「一年の計は元旦にあり、っすよ。ほら、行くっすよ」

「へいへい」


 私が歩き始めるのを見て、後ろをついてくる。


「やっぱり若いなあ、上埜は」

「それだけじゃないっすよ」

「どういうことだ?」

「ヒミツっす」


 今に見ていろ。今年の私は違うんだ。去年までの私を脱ぎ捨てて、断ち切って。


「あ、その前に」

「ん?」


 私は振り返る。好きな人が、こっちを見ている。


「あけましておめでとうございます、センパイ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新しい年と、新しい私 今福シノ @Shinoimafuku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説