第62話 暗躍


 世界とは何なのか。国とは何なのか。

 それらを作っているのは、果たして誰なのか。


 人間という生物が作り出した「概念」はときに人間を狂わせる。

 最たる例がお金である。


「さて。今月の上納金の多かった順に称号をくれてやろう」


 安アパートの一室。

 任侠組織【ダービン】の頭領である、キヨセは暗い部屋の中、PCの画面を見ながらそう言った。


「――――4位、トリボネ。2500万。

 最近システム会社がなかなかにうまく行っているそうじゃァないか。

 その調子で頼むぞ」


「――と――n――hぢどあn」


「は? なんだって?」


「………あsfh――ああ、ああ。

 も、申し訳ないです。とても回線がw――sfngp」


「もういいや。次。3位、ヒサツネ――」


 ぶつんと、回線落ちをした音が聞こえたが無視をした。

 組織の活動資金を集める正規の会社を取り仕切る若き社長たち。

 それらを取りまとめるのが頭領のキヨセである。


 先代の「ダービン」はすでに解体されており、今現在の「2代目ダービン」はそれよりももっと深い世界で活動をしていた。


 その組織活動を可能にしているのは、キヨセの持つ「才能」のおかげであった。

 

 最近において、トラベラーは珍しくはない。

 どこかの遊楽貴族がダンジョンを一般開放しており、安全にトラベラーになれるイベントが毎日開催されており、

 そこに参加するだけで、ランダムだが特別な「才能」を手に入れることができる。


 キヨセもそのイベント上がりのトラベラーだった。


 その「才能」は【認識阻害】。

 発動すると、そこにキヨセがいても、キヨセだとは認識できなくなる。


 透明人間とは行かないものの、友達や家族からも自分を「知らない人間」として扱う「才能」は、果たしてダンジョンではまったく通用しない。


 ダンジョンに出現するモンスター、人間を無差別に襲うからだ。


「1位のカイト。おめでとう。

 ところで、記憶は戻ったかい? その有り余る「才能」をこの世界だけで使うのはもったいない」


『そうでもない。俺はもう表の世界じゃあ死んでるからな』


「毎回それしか言わないじゃないか。もっとボキャブラリーを増やしたらどうだい?」


『すまない。特に俺がこの世界で死んだ人間であること以外まったく覚えていないんだ。それをまず最初に伝えたい』


「わかったわかった。

 でもすごいじゃないか。記憶が無いと言っても3億円もの寄付ができるくらいに稼いだんだろう?」


『まぁな。ネタバラシをすると、普通にダンジョンに行っただけなんだが』


「なんだ。表の世界でも生きていけるじゃないか」


『ダンジョンとは表の世界なのか。

 すると、俺が今いる闇の世界とはどこの対比なのだろう。

 闇の世界。光の世界。光の中とは、やはり太陽なのだろうか。

 太陽といえば、恒星だ。恒星の中でも俺はスピカが好き。

 何故ならば―――』


 語りだしたカイトの音声をミュートにして、だがカメラは口をぱくぱくさせながら喋り続けるカイトを写し続けた。





 長禅儀がまず最初に行ったことは、『戦略院』メンバーの強化であった。

 

 世界を統一すると言っても、人間の価値観は様々で、

 なにを中心に据えても誰も賛成してくれるような意見はない。


 老人から若人まで、平等で偏りのない「正解」はこの世に存在するはずもなく。


 だったら一番正しいのは――――


「暴力だ。

 それは、世界で、人類で最初の発明だ」


 謎理論を人に押し付ける長禅儀だが、

 しかし、それは唯一の「正解」だと誰しもが認識している。


 力こそ全て。資本主義。

 弱者は、その立場になった人間が悪い。

 

 つまりは、【戦国時代】。


「かつての織田信長は言った。

 勝てば官軍。歴史など勝手に塗り替えてくれる。と」


「言ってないが」


「反乱軍をすべて鎮圧すれば、残りは大した民意のない大衆だ。

 長いものに巻かれる人類は淘汰してしまえ」


「つまり、民族同化で汚染してしまえと」


「そんな事させないが」


「誰だ。俺の演説に横槍を入れてくるのは!」


 半ギレの長禅儀に、『戦略院』の事務所に集まったメンバーの一人


 槍使いの元松が手を挙げる。

 

「空気を読まないと嫌われるぞ、元松」


「いや、最初から嫌われてるっしょ」


 と、桐生が返す。

 彼は、スマート端末を触りながらの発言だったので、また長禅儀が


「なんだその態度は! 俺に向かって!

 俺を誰だと思っている!」


「老害」


「ふむ」


 即答に、少し頭を捻る長禅儀。

 しかし俺はまだ30代だろうと


「狂墨、こいつを殺してしまえ」


「はぁ? カズ以外から命令されたくないんだけど」


 と円卓に頬杖をついた状態でジト目。一蹴されてしまう。


「俺はな、善良な一般市民を徴兵なんてしたくないんだ。

 まずは、北部日本を奪還しなければならない。

 その作戦会議だと認識しているのか?」


 大半が話を聞いていない。


「見栄を張ったのはいいが、

 いかんせん一人では手が足らないと協力を仰いだのが間違いだったのだろうか」


 長禅儀が消えて4年。それから戻ってきて半年が過ぎた。


 初代『戦略院』メンバーの筆頭・長禅儀、そしてカイリ、狂墨、佐々木とSランカーの面々。その一大戦力が抜けたことにより、始まった新ソ連との侵略防衛。

 そこで、『戦略院』の半分が死んだ。

 人員補充とは言え、強さだけを求めていると意思疎通が出来ない。

 ちょうど今のように。


 しかし、長禅儀は戦力として最近活動がなく、

 『戦略院』のメンバーから実力を疑われている状況。 

 どれだけ強くても、証明が出来ない現在。

 舐められても仕方がないのだろうと受け入れる。


 だが、国は知らないおじさんを筆頭に据えた。

 4年後の『戦略院』のメンバーからしたら、まったく面白くはなかった。


 

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あぶく銭が湧いたので使い切りたいが増える件 藤乃宮遊 @Fuji_yuu

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