人形契約〈Pygmalionism〉【短編プロット】

永久凍土

結末までのプロット

【登場人物】

・主人公—— 二十代後半、成人向け企画を探している女性フリーライター。現在は特定の交際相手が居らず、成り行きの関係も吝かではない大人の女性。

・動画主—— 三十代後半、小さなデザインプロダクションの社長と自称する。仕立ての良いスーツに古いロレックス、車は先代のプリウス。清潔感があり整った顔をしている。年齢の割に若く見えるが顔色は冴えない。眼鏡付き。


【前文】

人形偏愛症(人形愛)—— ピグマリオンコンプレックス。人形、つまり意思が存在しないヒト型の対象を愛するディスコミュニケーションの一種。広い意味では人形のように女性を扱う性癖も含まれる。学術的にはピュグマリオニズム(Pygmalionism)。


【起】

 成人向け企画のアイデアを探す主人公。ある日、知人から成人向け動画サイトのチャンネル「人形契約」を紹介される。動画には薄いレースの目隠しをした全裸女性が、男性に愛撫され続ける動画ばかり並んでいた。

 動画の女性はアンダーヘアの剃毛に留まらず、コンシーラで首から下の色という色が塗り隠されている。ホクロやくすみ、乳輪さえ同色化した見た目はチャンネル名に相応しく「人形」。

 一方男性は引き締まった身体つきに無地のTシャツとグレーのボクサーパンツ。逞しい腕と脚は動画の女性と同じく丁寧に脱毛されている。

 撮影場所はシティホテルと思しきプレーンなベッドの上。男性は四つん這いや立て膝など女性の姿勢を誘導、黙々と手指だけで愛撫を続ける。顔は常に画角の外で映らない。指先はまるで弦

楽器の指板を踊る奏者のそれである。

〈動画内の描写、第一の山場〉

 女性が何度か頂きを迎えたところで動画は終わる。男性に肉体的反応も無ければ、その先の行為もない。カメラはベッドの脚側に据えられる。画面右側の窓らしき光源から入る柔らかな光から、午前中に撮影されたものと分かる。色調はコントラストが抑えられ、無修正にも関わらず他の猥褻な動画とは一線を画す。

 主人公は男性の指先に魅せられ、企画を忘れて自慰に没頭する。何度かチャンネルを開いた数日後、モデル募集のバナーが出ていることに気付く。


【承】

 チャンネルの主、男性とコンタクトを取る主人公。軽い世間話の後、動画の趣旨と契約内容を確認する。拘束時間と場所、撮影回数、そして報酬。前日夜に主人公一人でホテルに入って剃毛。翌早朝に男性が訪れ、全身の色消しを施す。行為は愛撫のみで行為は無しと主人公に求められる。

 満足いく報酬。顔と耳はレースの目隠し、髪はベタ付かない程度に濡らす。ホクロなど身体的特徴は入念に塗り潰され、動画で見る限り本人特定は難しい。既に動画の趣旨に理解がある主人公は、契約を二つ返事で受け入れる。

 男性は動画の動機について「動画は私の作品(アート)だ」と語る。「芸術とするには動画の趣向は理解され難く、良いモデルが集まらない。なら発想を逆転してアダルトサイト」。

 男性は色合わせに用意したカラーパッチと主人公の手の甲や首元を撮影し、初顔合わせが終わる。後日、入念な準備を終え、いよいよ撮影に入る主人公。

〈主人公による撮影実況、第二の山場〉

 撮影を重ねる毎に男性に興味を持ち始める主人公。行為しないのは動画内だけ—— とそれとなく行為に誘うが、男性は全く興味を示さない。主人公は焦ったさを感じたまま、撮影は最終日を迎える。


【転】

 最終日の撮影は同じホテルの反対側の部屋、時間は夕刻で西陽となる。撮影が済むと陽は沈んで夜。お祝いと称してルームサービスでスイーツとアルコールを注文する男性。主人公はバスローブのまま小さな乾杯をする。意を決して男性に「もしかしてゲイ?」と尋ねる。男性はそれを否定し「あなたには特別に」と身の上話を始める。

 中学生の頃、母を早くに亡くし父の姉の三人で暮らしていた男性。部活をサボって早く帰宅した午後、風呂場で行為に及ぶ父と姉に気付く。磨りガラス越しの淡い陽射しに照らし出された姉の姿。まるで父の腰の上で踊る「人形」のようだった。

〈男性の独白、第三の山場〉

 男性が高校生に上がったある日、父と姉を不幸にも交通事故で同時に亡くす。死化粧が施された姉の遺体に触れ、再びあの日の「人形」のような姉を思い起こす。以来、男性は人形が持つ「無垢な艶かしさ」と、冷たい「死の温度」にしか性的興奮を得られなくなったと語り終える。

 そして「あなたは姉によく似ている」と口にする男性。

 同時に主人公の意識は朦朧とし始める。


【結】

 冷たいタイル張りの床、強烈な寒気。主人公が目を覚ますとバスルームの照明。仰向けに寝かされており、思わず身体を丸めて左横を向く。すると浴槽と床に散らばった氷、自らは全裸、腹の上には点々と白い粘液。反対側に向くとうつ伏せ倒れ、後頭部を向ける男性。同じく全裸。

 主人公は震える声を上げて後ずさる。冷静を取り戻し、男性の様子を伺うため立ち上がろうとする。だが、身体が凍えて腕や脚に力が入らない。背中に当たった浴槽に手を伸ばすと氷が浮いた水。ようやくシャワーの存在を思い出して熱い湯を浴びる。男性に湯を浴びせてもピクリとも動かない。

 男性は睡眠薬で主人公を眠らせた後、一時的に主人公の体温を下げ「人形」を再現しようとしていたのである。

 下腹部を調べても行為の痕跡が見当たらない。腹の上のそれもシャワーで流れてしまった。主人公は冷たくなった男性を仰向かせる。表情に苦悶は見られず、ただ眠っているようにしか見えない。

 主人公はおもむろに男性の手を取り、腰の上に跨って——


※男性は元々心臓疾患を患っていて極度の興奮による心拍異常という設定で性癖も正常とは言えない人物ですが、本作をサスペンスとして書きたくないのでボカしてます。

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