後輩

三瀬 しろり

理由

「なぁ、なんで人って生きてるんだろうな」


「こんな真っ昼間からなんて話してるのさ。もっと明るい話をしようよ、少年」


「どの口が。もう俺の先輩みたいなもんだろ」


「君を後輩にするつもりはないよ」


「あっそ」


「相変わらず口が悪いなぁ」


「別に生きてく上で困らねーし」


「でもさ、会社やバイトの面接なんかでウッカリ口が滑っちゃったらどーすんのさ。とりかえし付かないことになるよ?多分」


「多分かよ」


「だって僕社会人とかなったことないもーん」


「そーだったな。で、なんで人って生きてるんだ?」


「よりによって、なんでそれを僕に聞くかねぇ」


「話したこともねぇクラスメートやらうるせぇ教師に聞くよりはマシかと思って」


「まあひとりで突っ走らなかったことは褒めるけど、なんで急にそんなこと言い出したわけ?」


「やっぱいざとなると、ダメなんだ。ココに残る理由を探しちまう。だから、お前に背中押してほしくて」


「馬鹿だな。そもそも屋上って選択がダメなんだよ。僕だったらこんなとこ選ばない」


「じゃあどこが正解なんだよ」


「富士山かな」


「馬鹿はどっちだ。世界遺産で事件起こしてどうするんだよ」


「そういう心意気で行けってことだよ。君はまだぬるい。カップ麺のようだ」


「それはわりと熱いぞ。そうか、お前は食べたことねーんだっけ」


「その通りだ。ちなみに生きることに理由を求めてるうちは君はまだ人間のままだよ」


「ずっと人間だよ」


「ちなみに僕の生きる理由は皆無だった。結果このザマだ!」


「やっぱりそうだよなぁ……」


「どうだい?生きる気にはなったかな?」


「サンキュ。おかげでやっと決心ついたわ。ちょっと飛び降りてくる」


「待て待て、落ち着くんだ。深呼吸だよ、吸って吐いて吐いて吐いて、そう。息ができなくなるまでやるんだ」


「……ごほっ、ごほっ。お前は俺を生かしたいのか死なせたいのかどっちなんだよ」


「もちろん、生きててほしいに決まってるじゃないか」


「なら明確な答えを示してみろよ。なんで人は生きるんだ?どうしてこんな世界で何十億人もの人は呼吸して勉強して仕事して飯食うだけの生活を毎日毎日続けられるんだよ」


「だからそこに答えはないって言ってるだろう。人それぞれだよ、そんなの」


「それが見つかんねぇからこんなんになってるんだろ」


「それは君が見つけるものだからねぇ、僕にはなんとも」


「……お前は、今なら見つけられると思うか?」


「どうだろう。そんなの分からないよ。あの頃が僕の全てだったからね……フッ」


「楽になれるって思ったけど、変にお前みたいになる可能性もあるし、そしたら厄介だしなぁ……」


「ひっどいなぁ、全く。……あ。明日僕の好きな漫画の発売日じゃん!お願い少年、明日までは生きててよ」


「そんなくだらねぇ理由で生きろってか?」


「だって僕ひとりじゃ漫画も変えないしさ。今月、すっごいイイトコなんだよね。アレを読むまでは成仏できない!」


「……ったく、誰の金で毎月読めてると思ってんだよ」


「といいつつ、なんだかんだ毎月買ってきてくれるよねぇ。でもさ、生きる理由1個、できたじゃん」


「は?」


「明日は、漫画を買いに行って、僕と一緒に読むために生きるんだ。で、それが終われば君は好きにしていい」


「……俺に生きててほしいんじゃなかったのか?」


「別に。ただ、君には未練を残してほしくないだけだよ。さっき君も言ってたけど、僕みたいになっちゃったら最悪だしねぇ」


「…………」


「でさ、明日、また明日って理由をこじつけてって、本当にどうしようもなくなったときに、いきな。そしたら僕みたいにはなることはない」


「どんな小さい理由でも?例えば、購買の伝説の焼きそばパンをゲットするため、とか」


「もちろん。なんだっていいよ」


「なんだよ、やっぱ生きてほしいんじゃねーか」


「そりゃあね。母校の後輩だもの。昔ここで失敗した先輩からのアドバイスだよ」


「やっぱお前も屋上か」


「あーあ、バレちゃった。さすがに僕でも富士山でやる勇気はなかったよ」


「残念だったな。後輩はあと1日は生きる気らしいぞ」


「上等。言っただろう、君を後輩にする気はないって」

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後輩 三瀬 しろり @sharp_r

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