吸血鬼と人狼の長きにわたる抗争は実際、いつから始まったのか
宮田秩早
第1話 吸血鬼と人狼の長きにわたる抗争の歴史は、実際、いつごろから始まったのか
「吸血鬼と人狼の長きにわたる抗争の歴史は、実際、いつごろから始まったのか」について、つらつら考えてみたいと思います。
東欧の民間伝承としての彼らの関係は曖昧模糊としていますが(地域や時代が違えば言い伝えも変わる)「深刻な抗争はしていなかったのではないか」と推測されます。
『人狼が死ぬと吸血鬼になる』とか『狼避けと言われるトリカブトが吸血鬼撃退のアイテム』だとか……吸血鬼と人狼を関連付ける言い伝えはあるんですが、彼らが抗争しているので吸血鬼が村に現れたら人狼を連れてこい、みたいな話は聞いたことがない。民間伝承で、吸血鬼退治で有名なのは『ダンピール』。吸血鬼を父親とし、人間を母親とする半吸血鬼の存在でしょう。(吸血鬼が母親で、人間が父親っていう逆のパターンがなぜ無いのかは、またいつか記事にしたいと思います)
民間伝承にこだわっては埒があかないので、視点を変えて、映画の話をしたいと思います。
1900年代においては映画界には狼男と吸血鬼が両方登場する作品自体がすくない。ユニバーサルのホラー映画においては両方登場するものがありますが、別に世代を跨ぐような喧嘩をしていません。だいたい、そのような映画では、狼男はたいてい、人狼化を治療してもらって自分の恋を実らせようと夢中で、吸血鬼と喧嘩をしている暇がありません。
やがて狼男は銀幕から一時退場し、映画界では「狼化」する吸血鬼が流行ります。1931年『魔人ドラキュラ』ではドラキュラは狼になって逃走します(という台詞があるだけなので映像はないのですが)。1985年『フライトナイト』では吸血鬼ダンドリッジに襲われ吸血鬼となった登場人物の一人が狼になって主人公を襲います。1992年コッポラの『ドラキュラ』では、ルーシーを襲う伯爵が人狼の姿をしていますし、狼を手懐けます。ほかにも、1979年『ドラキュラ 都へ行く』ではドラキュラのピアノに合わせて狼が合唱(自身も狼に化けられます)。
これらの設定の元ネタは、1897年発行のブラム・ストーカー『ドラキュラ』でしょう。本作では、ドラキュラが狼を意のままに操る描写があり、また、ドラキュラ伯爵が難破船からイギリスに上陸した描写は『難破船から巨大な犬が飛び出してきた』というもので(新聞記事の体裁を取っています)、読者に「ああ、あの犬のような狼のようなものはドラキュラ伯爵が変身した姿だな」と類推させるものとなっています。
あくまでも吸血鬼が狼に変身するという設定ですので、当然、抗争云々は関係ありません。
ここにひとつの映画が登場します。
2003年『アンダーワールド』。
もともとは血族でありながら、抗争を始めた吸血鬼族と人狼族。そしてふたつの種族のあいだで揺れる愛を描いた物語です。続いて2004年『ヴァン・ヘルシング』では人狼は対ドラキュラ戦の切り札となりましたし、2005年発行の小説『トワイライト』では人狼族は人間社会を吸血鬼の侵害から守るネイティブアメリカンと設定されています。『バッフィー/ザ バンパイア・キラー』シリーズも2003年になってそれまで影も形もなかった人狼族が登場します。
もう、吸血鬼と戦うのも、吸血鬼と恋のさや当てをするのも、人間じゃなくなったんですね……それはそれでさみしい(笑)
結局のところ、CG映像技術の発達で、人狼の変身も、人外の戦いも(それも集団)本物みたいな映像を作れるようになったことから、変身描写の難しかった人狼が銀幕に復帰、2003年の『アンダーワールド』のヒットによって『吸血鬼と人狼の抗争』という設定が広まったものと思われます。
【結論】
以上をもちまして、「吸血鬼と人狼の長きにわたる抗争の歴史は、実際、いつごろから始まったのか」の回答は、だいたい2003年くらいから、という見解を私は持っています。わりと最近ですがでもいまの二十代の方は抗争してる彼らしか知らないってことですよね?! 月日の経つのは早いものです。私も歳を取るわけだ。(涙)
そう……吸血鬼諸氏は映画界に自分の変身するネタと、友人(もしくは従者)を奪われてしまったのです……うん、恨んでいいと思うよ??
吸血鬼と人狼の長きにわたる抗争は実際、いつから始まったのか 宮田秩早 @takoyakiitigo
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