(8)

 ミカに会わない二十二歳の一日があるなんて信じられない。もう何度も心の中で叫んだ「信じられない」は時間が経つごとに胸の内で大きくなる。ミカは私ではなかった。裕樹が本当に救いたかったのは、祐樹の世界の美香だ。ここにいる美香わたしではない。

 そんなことを考えて夜ご飯の食器を洗いながらニュースを聞いていた私は、流れてきた報道に耳を疑った。


「大田区に住む二十二歳の女性、岸田麻依さんが自宅で死亡しているのが発見されました。胸部に数カ所刺し跡があったことから、警視庁は殺人の疑いで捜査を続けています」


 ああ、私はこの世界で生きていける。二十二歳の呪いはもうない。


 でも、それなのに……


 昨日祐樹に渡された手紙に水滴が落ちた。


『――好きです。これから一緒に生きてくれませんか』


 『好きです』の文字が滲む。


「しんじ、られないよ……」


 手紙を両腕で抱きしめた。

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いくつもの世界で君を想う オレンジの金平糖 @orange-konpeito

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