(7)

 私は祐樹をいつもの居酒屋に呼び出した。本人に確認する以外方法なんてない。やってきた祐樹に、砂時計と手紙を差し出した。


 答え合わせの時間だ。


「平行世界と繋がっているのは私じゃないんだね。祐樹なんだよね」


 ちょーのうりょくしゃなのは祐樹だ。小一のミカにわざわざ伝言を頼んで私に伝えたのは祐樹本人。

 祐樹は私が何を言うのか分かってここに来たはずだ。私にわかるように教えたのは祐樹だから。


 悲しそうな顔で微笑んだ後、祐樹は新聞記事の切り抜きを何枚も私の目の前に並べた。どの記事も、似たような内容だった。


 平行世界のミカは二十三歳になる前日で死んでしまう。原因は殺人事件。動機は事故で亡くなった妹のための復讐。

 犯人は岸田麻依。第一発見者は前島裕樹。


 どの世界でも、必ず、美香は殺される。


 『ミカ』もミカも平行世界の美香であることに変わりはない。ただ、過去の私にはならない。それぞれ別の世界を生きる別人だ。

 砂時計は祐樹が平行世界を渡るときに使うものを他人用に改良した物。本来できるはずのないことを無理やり行ったために、耐えきれなくなった私の体が消えている。


「中学の時の事故って、突っ込まれたのはむしろ私だよね……?」


 麻衣ちゃんがどんな気持ちで私と接してきたのか考えるだけで吐き気がする。しかし、どうしても問わずにはいられない。なぜ私は殺されなくてはいけなかったの?


「お前は加害者ではなかったよ。ただ、状況が悪かったんだ。いくつもの出来事が重なって、あいつはお前を恨まないではいられなくなった」


 そこまで話して話を一度区切った祐樹が、目を伏せた。頬の内側を強く噛んでいるのだろうとわかる。

 祐樹がこんなことをしているのは私が殺されないようにするためだ。そういえば手紙にも過去の会話の再現をしろだなんて書いてはいなかったし、祐樹も言わなかった。でもそれなら最初からそうなることを教えてくれればよかったのに。それなら


「それじゃダメなんだ」


 私の考えていることが分かったのか祐樹は再び話し始めた。


「そもそも俺は人の未来を変えることはできない。それに、未来を伝えたり俺のことを言ったりしたらお前と俺は――」


 祐樹は口をつぐんで新聞記事を集め、砂時計と共に鞄にしまい、別のものを取り出した。


「これ、後で捨てといて」


 少し古びた封筒を手渡し、祐樹は店を出て行った。



 「ミカ」がくれた手紙と祐樹に渡された手紙は、同じ人の文字だった。この封筒も、あの手紙と同じようにたくさんの世界の美香の手を渡ってきたのだろうか。


 左腕は起きると元の位置にしっかり収まっていた。昨日裕樹が最後に言いかけたことと、左腕が戻ったことから私は最悪な結論に達しつつあった。うその混じった周りくどい手紙が限界なのだとしたら、間違いなく昨日の告白はタブーだ。

 祐樹に連絡する勇気は、ない。

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