第4話 無謀な買い物

 母は、家具が好きだ。理想があるらしく、それに近いものを見つけると、もうワクワクが押さえきれなくなってしまう。


 その、ワクワクさんが来てしまう。たまたま仕事を辞めたタイミングで、デパートで理想のダイニングセットを見つけてしまった。帰るなり、私をふん掴まえていかに自分が素敵なテープルとチェアのセットを見つけたか。夢見がちに喋り続ける母だったが、幾らなの?という私の問いに突然口をつぐんでしまう。……ははーん、これは結構すんるだな、と、猿でも気づくような私の反応に、買えない金額じゃないの!と言い張るが、で、幾ら?の問いには貝になってしまう。こりゃダメだ、と思った。ので、買うのはいいけど寸法ちゃんと測っていきなよ!ああいう広いところにある家具は、意外と小さく見えるんだからね!と、強く念を押す。それにはいいお返事をしてくれた母だったのに……返事だけだった。


 ある土曜日、どんどんどん、と運送屋が荷物を運んできた。今まで使っていたのはふたりがけの小さなテーブルとチェアだったから、どかすのは簡単で、取り敢えず和室にそれらを避難させると、がらんとしたダイニングにバカでっかいテーブルとチェアがぼんぼん搬入されてくる。

 はっとしたときにはでっかいテープルにでっかいチェアが四脚。後ろを通るのが精一杯のキツキツ具合。そうしたら、一脚、チェアの脚がバリバリに割れているものがあり、それは代品をすぐ持ってくるとのことだった。代品じゃなくて、ひとまわり小さなセットに買えて貰え、母よ!と、祈ったが母は満足そうにニコニコしている。あーあの顔をしているときはダメだ。念願のセットを手に入れてウハウハ状態の母には、キツキツのこの状態が目には入っていないのだろう。


 運送屋が引き上げた途端に、何でこんなでかいのを買ったんだ、寸法は?測った?と、捲し立てた。母は、寸法は測らなかった。○○さんが大丈夫って言ったから、と目を泳がす。ちなみに○○さんは、別に見ただけで寸法が測れる特殊能力を持った人ではない。ただの主婦だ。


 今すぐ買ったデパートに電話して、寸法小さいのに買えて貰う手配をして!と母に言うと、だってこれがいいんだもの、と応じない。明らかにめちゃくちゃ狭くなったダイニングで、にらみ合いが続いた。


 分かった。好きにしていいよ。こういうの好きだもんね、と、根負けした私が椅子に座る。と、その座り心地は悔しいが、満足のいくものだった。


 そして私たちはまだ知らない。狭いところに大きなものを入れると、その上にドンドンものが載ることを。そしてふたり住まいに四脚の椅子があると、そのう二脚は物置になることも。


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