心にしみる

➀ アパート・二階 ある男の部屋(夜)

   M『蕎麦屋』(中島みゆき/オフヴォ

    ーカル)。シーン④迄。

   冬。畳の六畳間。男(20代)、抱えた

   膝に顔を埋めている。その手前に折り

   畳みテーブル。スマートホンと眼鏡が

   置いている。スマートホンの画面『12

   月31日』。と、ぱっと着信画面に切り

   替わる。男、顔を上げてスマートホン

   を見る。


② 同・前(夜)

   雪が降っている。

   ──仰角で。

   二階の窓。カーテンが開く。と、窓際

   に男。眼鏡をかけて、耳にスマートホ

   ン。外を見下ろしている。無表情。

    ×    ×    ×

   ──俯瞰で。

   雪の中、窓の下に女(20代後半~30代)。

   見上げている。耳にスマートホン。反

   対側に持ったレジ袋(カップ麺とおに

   ぎりが入っている)を持ち上げて、合

   図を送っている。少しだけ笑顔。白い

   息。傘は持っていない。


③ 同・二階 ある男の部屋(夜)

   畳にレジ袋。沢山の『赤いきつね』

   『緑のたぬき』とコンビニおにぎりが

   見えている。

   折り畳みテーブルに男と女。L字に座

   っている。テーブル上、二人の前に

   『緑のたぬき』とコンビニおにぎり。

   二人、合掌して、

二人「いただきます」

   男、『緑のたぬき』の蓋を開く。ふわ

   っと美味しそうな湯気。男、小エビて

   んぷらに割り箸をつける。と、

女の声「(静かに)あのさ」

女 「(自分の『緑のたぬき』を見乍ら)解

──────────────────────

 ンないヤツも、いるよ」

   と、静かに割り箸を割る。

   男、カップに箸をつけたまま、女をみは

   っている。その手前に女(後ろ姿)。

   男に構わずそばを食べ始める。

   ──真横からの視点で。

   (女を)見ている男、眼鏡が曇ってき

   て、目元が見えなくなる。と同時に、

   そのまま男の頬をP.D。男、(涙を堪え

   て)ぐっと唇を噛む。と、

    ×    ×    ×

男 「(涙声で小声で)はい」

   と、そばを食べ始める。女、男を見ず

   にそばを食べている。

男のM「そして先輩は、何も言わなかった

 ──何も……聞かなかった」

   二人、黙々とそばを食べている。

男のM「その優しさが」

   ──真横からの視点で。

   出汁だしを飲んでいる男(口元)。

男のM「温かいおだしと一緒に」

   男(口元)、カップから口を話して、

   はー……と息をつく。と、緩んでいる

   口元に涙が伝ってくる。

男のM「心にしみた」


④ 同・前(夜)

   雪が降っている。

   ──俯瞰で。

   二階の窓。カーテンが開いていて、男

   の部屋が見えている。折り畳みテーブ

   ルに男と女。二人黙って、そばを食べ

   ている。そこに商品紹介の写真(『赤

   いきつね』『緑のたぬき』)がゆっく

   り重なって、

男のN「(静かに)マルちゃん。『赤いきつ

 ね』と、『緑のたぬき』」

   SE『ゴーン』と遠くに除夜の鐘。


            『心にしみる』終

──────────────────────


 この物語は、登場人物の性別を入れ替えた

り、同性同士、また年齢を変更してもお読み

いただけます。

 お読みいただきましたそれぞれの方々に、

寄り添う「あたたかさ」をお届けできました

ら幸いです。


               佐久良 燎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心にしみる(マルちゃん「赤いきつねと緑のたぬき」コンテスト) 佐久良 燎 @Kagari-Sakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ