最終話 宇宙(そら)をスローライフ色に染めて

 オーバーロード会議に出た。

 ちっちゃい規模の会議なんだろ? とか思ったら、それぞれの銀河を支配するオーバーロードが出席してて、この場で宇宙戦争でも起こせそうな規模の会議だった。


 俺は神を捕らえられる力を持つ、新たなるオーバーロードとして紹介された。

 議場に起こる拍手。

 うーむ……。変な奴らの序列に加わってしまったぞ。


 俺はただ、スローライフがしたいだけなのに。

 スローに暮らそうと思えば思うほど、どうして遠ざかってしまうんだ。


 世の中はままならぬものである。

 ちなみに会議内容は、力のあるオーバーロードが牽制し合うものだったので、俺は何の関係もなかった。


 だがどういう訳か、俺のいる星系は攻撃対象から外す、みたいな決定が成されたのだった。

 力あるオーバーロードが俺を見る目は、なぜだか対等な相手を見るそれだった。


 解せぬ。


『あー、焦ったんだなもしー!』


 実は同席していたヌキチータが、滝のような汗を拭っている。


「焦ったのか」


『そうなんだなもし! 僕はこの会議の隅っこに座ってるレベルの神なんだなもし。それがあんな前列に! タマルさん、よく平常心だったんだなもしー!』


「焦っても何も変わらないと思ったのだ。それに敵対するなら虫取り網で捕まえればいいし」


『タマルさん、前々から思ってたんだけど胆力が宇宙トップクラスなんだなもし』


「俺は恐怖とかためらいという感情を前世に置き忘れてきたのかもしれん。あと、なんでみんな新参者の俺を対等に扱ってるの?」


『タマルさんの虫取り網は相手の格に関係なく、一撃ゲットするからなんだなもし。全宇宙のあらゆる存在相手にジャイアントキリングできる可能性があるオーバーロードなんて他にいないんだなもし。ちなみにタマルさんが作る破壊不能オブジェクトは概念攻撃も通さないんだなもし。あれってなんなんだなもし……?』


「魔人商店の商品もそうだったじゃないか」


『タマルさんが手に入れた瞬間に変質するんだなもし』


「分からん……」


 この場になって、新たなる謎が出てきてしまったぞ。

 だがそんな謎は、スローライフに何の意味もない。


 会議場を出ると、そこは大都市。

 惑星一個を概念化させ、中央部に議場を作り、周囲360度に未来都市が展開しているのだ。


 ウワーッ!

 都会が伝染る!

 早く帰ろうぜ!


 俺は都会が嫌いなのだ!


『僕はちょっとお姉さんがいるお店で遊んでいくんだなもし』


「とてもヌキチータらしい反応だ」


 ということで彼とはここで別れ、俺はUFOに乗って帰ることになった。

 見えてくる俺の星。

 今は、タマル星ということになっている。


 名実ともに、俺が開拓し、俺が守りきった星なので俺のものということになったのだ。

 惑星をカバーするように網目状の宇宙ステーションが広がり、その上に空気を含んだ薄い層がある。

 これで誰でも宇宙ステーションで暮らせるのだ。


 あちこちに家や店が立ち並び、あるいはプラントで畑作に励む者もいる。

 まさにスローライフである。


 そして今、スローライフは新たな局面に到達しようとしていた。


 近隣惑星に開拓団を送り込むための設備……マスドライバーキャノンが建造されているのだ。

 送り込むというか、撃ち込むというか。


『おお、タマル様! どうでしたかな、オーバーロードの星は』


「都会だった。最悪だぞ! 二度と行かん」


『オー、タマルさんはシティがヘイトですねー! シティイズ、ファストライフ! スローライフのエネミーでーす』


「おーいえーす!」


「タマルがフランクリンに引っ張られてる!! それでねタマル! 実は今朝卵が産まれたんだけど!」


「えっ!? いきなり!? 衝撃的事実過ぎる!」


 ポタルから爆弾発言である。

 どうやらハーピーの卵はそこまで大きくないらしく、一度に一個しか産まれないので卵ができてても見た目は変わらないらしい。


『ははーん、次はあたしと種を作ることになるわね』


『わらわは魔人侯ゆえ、どうやって繁殖するのかは分からぬな。よしタマル、試してみよう』


「だめー!?」


 女子たちがわちゃわちゃし始めた。

 そんな横で、ポルポルをコック帽に載せたシェフが走ってくるではないか。


『アイヤー! タマルさん、マスドライバーキャノンが完成したよー! 試射をするからこっちに来て欲しいよー!』


『ピピッピピー!』


「おうおう。それでなんでシェフが伝令を?」


『現場の人にお弁当を作って届けたよー。そうしたらちょうどいいって便利に使われてるねー』


「元邪神なのにフットワーク軽いもんな、シェフは」


 俺たちは、かしましい女子たちを引っ張って現場へ急ぐ。

 そこには、砲弾型の移動用装置が完成していた。


 これをマスドライバーに載せて、別の惑星に撃ち込むのだ。


 小邪神たちは、これに誰が乗り込むかで話し合っているところであった。

 そうそう。

 彼らはタマル星で正式に働いてもらうことになった。バイト卒業、正社員登用である。


「あっ、タマルさん! 僕ら、誰が行くかでもめてたんですよしかしー」


「ケルベロス三兄弟の一存でも決められないか」


『三兄弟だから三存ですな』


 ラムザーがぼそっと言った。

 たしかにな!

 決定者が頭3つあるし、意識は近くてもこれでは決められまい。


「よしみんな! 俺にいい考えがある」


『いい考え!?』


 邪神たちが俺を降り仰いだ。


「俺が行く」


 そういうことになったのだった。

 そして……マスドライバーキャノンが火を吹く。


 砲弾型カプセルは射出され、凄まじい勢いで標的となる惑星に突入した。


 タマル星はそこそこ近くに別の惑星があったのだ。

 緑色の大気圏を抜け、黄色い土に覆われた岩石ばかりの大地に、砲弾は突き刺さる。


 宇宙服を纏ったポタルが真っ先に飛び出した。

 胸元あたりに、卵温め器がついている。


「ここが私たちの愛の巣だね! 星まるごと愛の巣!」


『強欲というものが過ぎる! タマルはわらわたちの共有財産だぞ』


『食べるものなさそう。あたしは枯れるぅ』


 なんて賑やかなのだ。


 フランクリンはキャタピラで、黄色い土に跡をつけて遊んでいる。

 シェフは何か食べられそうなものを探しているな。


『ピピ!』


 ポルポルが俺の頭に乗った。

 そして、後から骨たちもぞろぞろ降りてくる。


『タマル一味フルメンバーで、新たな星に乗り込みましたな』


「おう。タマル星の開拓はだいたい終わったからな。そうなればやはり……次の開拓をすべきだろう!」


 ラムザーと並び、俺は新たなる星を見渡す。

 どこまでも続く黄色い大地。

 そして緑の空!


 大気は呼吸可能かどうか不明!

 実に開拓しがいがあるじゃないか。


「ここを、新たなるスローライフの地とする!」


 俺は高らかに宣言した。

 さあ、スローライフの第二歩目を踏み出そうではないか。


『ウグワーッ! 新しいスローライフが始まりました! 1000ptゲット!』




 おいでよ、死にゲーの森! おわり

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おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様だった~ あけちともあき @nyankoteacher7

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