最終話 織田信長フォーエバー

 突然笑いだした、本物の信長。その真意がわからず呆気にとられるが、本物の信長はひとしきり笑った後、集まった信長達に向かって言う。


「まさかワシにここまで抵抗するとは。それに、どれだけ追い詰めても決して挫けることのない信念。くだらん偽者と思っていたが、なかなか面白いやつらではないか。これは、殺すには惜しいな」


 その楽しそうに語るその姿に、さっきまでの殺意は感じられない。

 それを見て、期待を込めながら聞いてみる。


「じゃあ、全ての信長ものをオワコンにするってのは、どうするんだ?」

「気が変わった。もう少し、こやつらの行く末を見たくなった」


 そのとたん、信長達から歓声が上がった。それはきっと、自分達の命が助かったからだけじゃない。

 自分達の元もなった人物に認められた。これが、嬉しくないはずがない。


「ワシがこやつらのことを認めるなど、絶対にないと思っていた。だが、絶対は絶対にない。こやつら、それを証明しおったわ」


 信長はそこまで話すと、クルリと踵を返し、背中を向ける。

 そうして立ち去ろうとするが、最後に背中を向けたまま言った。


「織田信長を受け継ぎし者共よ。決してその名を汚すでないぞ」

「ああ。約束する」


 真っ先に応えたのはどの信長だろう。それはわからないが、ここにいる誰もが同じ気持ちなのは間違いない。織田信長の名がいかに大きなものかなんて、全員がわかっている。

 今回戦いはしたが、本物の信長はやはり憧れであり、目指すべき目標なのだから。


 そうして、本物の信長がいずこかへ去っていくと、今度は集まった信長達が、それぞれの場所へと帰っていく番だ。


「さらばだ、信長」

「達者でな、信長」


 信長同士挨拶を交わし、一人また一人と、現れた時と同じような光に包まれ、消えていく。そしてとうとう最後の一人、俺の書いた信長が去る時がきた。


「作者どの。お主や他の信長達と共に戦えて、楽しかったぞ」

「ああ。俺もだ」


 途中何度も死ぬかと思い、めちゃめちゃ怖かったけど、こんな凄い経験、二度とできないだろう。


「俺、これからもお前の物語を書くよ。本物や、ここに集まった信長達に負けないくらいの、最高にかっこいい織田信長の物語を!」


 俺の信長は、それを聞いて満足そうに微笑むと、光に包まれ、いずこかへ去っていった。


 そしてその直後、俺の意識は眠りに落ちたように途絶えた。












「…………ハッ!」


 気がつくと、俺は元いた自分の部屋にいた。

 さっきまでいた精神世界も、あれだけいた信長も、今はもう影も形もない。


「夢、だったのか?」


 普通に考えればそうなるだろう。小説の書きすぎで疲れていたと考えるのが妥当だ。

 だが、不思議とそんな風には思えなかった。それに、あれが夢か現実かも、今となってはどうでもいいことかもしれない。


 俺は織田信長が好きで、信長もののラノベを書いていく。大切な真実はそれだけだ。


 そうと決まれば、早速執筆の再開だ。机に座り、カタカタとパソコンのキーボードを叩く。


「そろそろ、明智光秀を本格的に暗躍させたいところだな。信長ものの悪役と言えば、やっぱり光秀だろう」


 意気揚々と、明智光秀の悪逆非道な行いを書いていく。

 だがその時だ。ふとどこからか声が聞こえてきた。


「いい加減にしろーーーっ!!!」


 それと同時に、突如目の前の景色が歪み、何もない空間に、真っ黒な穴が空いた。

 さっき俺を精神世界に吸い込んだワープホールだ。

 そして、その中から声が聞こえる、


「私は、明智光秀の霊。どいつもこいつも、信長ものを書いては私を悪役にしおって。その恨み、晴らしてくれるわーっ!」

「えぇーっ!?!?」


 どうやら信長モチーフのラノベを書くには、まだまだ困難が待っているようだ。


 完

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織田信長をモチーフとしたコンテンツが多すぎて、信長本人の亡霊がブチ切れた⁉ 無月兄 @tukuyomimutuki

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