第3話 スーパー信長大戦

 今までだってさんざん不思議な事が起きてきたが、中でもこれが一番の驚きだっただろう。

 やって来た集団は、ラノベやマンガなど、あらゆるコンテンツで活躍中の信長達だった。こんなにもたくさんの信長が揃っているところなんて、見たことがない。


「精神世界だからこそおきた奇跡だ」


 そういうものなのか。なんかよくわからないが、もう納得するしかない。


 異能力を使う信長がいた。タイムスリップした、元現代人の信長がいた。美少女の信長がいた。美少女の信長がいた。美少女の信長がいた。

 やっぱり美少女化多いな。


 他にも、仮面ライダーシリーズの一つに出た信長がいた。別の仮面ライダーに出た信長がいた。別の仮面ライダーに出た信長がいた。別の仮面ライダーに出た信長がいた。

 仮面ライダーシリーズ。信長好きだな。


 と言うか、さっきから信長という言葉が出すぎてゲシュタルト崩壊しそうだ。


 とにかく、ここにいるのは一人残らず信長だった。

 そして、彼ら彼女らがここにやって来た目的は、ただひとつだ。


「本物の信長よ。お主の言い分はわかったが、ワシらもみすみすやられる気はない。全ての信長ものを終わりにするというのなら、ワシらを倒してからにしろ!」


 信長うちの一人が代表して言い放つと、他の信長達からも、次々と賛同の声が上がる。

 つまり、どの信長も目指すところは俺達と同じというわけだ。


「一緒に戦ってくれるのか?」

「当然だ。今こそ、全ての信長の力を合わせる時だ」


 これほど心強い味方はいない。


 だがこれだけの数を前にして、本物の信長は一切怯むことはなかった。


「ワシの偽者どもが自分からやって来てくれるとはの。ちょうどいい、まとめて葬ってくれる!」


 その言葉を聞いて全ての信長が身構える。そして戦いの火蓋が切って落とされた。


 それは、まさに合戦だった。

 あらゆるコンテンツで活躍中の信長達は、思い思いの方法で攻撃をしかける。

 ある信長は刀をふるい、ある信長は鉄砲を撃ち、ある信長は刀の先からビームのようなものを放っていた。

 さすが、設定を盛りまくり、史実など思い切りねじ曲げてきた架空の信長達。その攻撃方法も実に規格外だ。


 しかしこれだけの力を持ってしても、戦況は、決してこちらの有利とは言えなかった。

 俺の信長のチート能力が効かなかったように、信長軍団の攻撃は、本物の信長にはほとんど通じない。

 逆に本物の信長が放つ衝撃波は、たった一撃で数多の信長軍団を吹き飛ばす。数の有利なんてものはまるでなく、むしろこれだけの軍団を圧倒することで、本物の信長がいかに強力無比な存在であるかを思い知らされる。


 せっかく集まった信長軍団も、このまま成す術なくやられてしまうのか。

 だがどれだけやられ、ボロボロになっても彼らは、決して諦めようとはしなかった。


「さすがは我らのオリジナルだな。これは倒し甲斐がある」

「まだまだ、戦いはこれからだ」


 何度倒しても起き上がり、立ち向かってくる信長軍団に、本物の信長も苛立ちが募ったのだろう。吐き捨てるように言い放つ。


「往生際の悪いやつらめ。どれだけ足掻こうが、所詮貴様らはなんの価値もない、ただの偽者だ!」


 偽者。確かにそれは、その通りなのかもしれない。ここにいるどの信長も、オリジナルの活躍にあやかった二次創作のようなものだ。それは、信長ものを書いた俺自身もよくわかる。

 だが、だがそれでも、今の言葉を全て受け入れる気にはなれなかった。


「偽者だって、ちゃんと意味も価値もあるんだ!」


 気がつけば、俺は信長軍団をかき分け、叫んでいた。


「そりゃ、彼らの物語は確かに偽者だ。本物の信長であるあんたから見たら、でたらめだらけだ。でも、そんな偽者の物語を見て、ワクワクするし夢中になるやつだっている。その気持ちは、決して偽者なんかじゃない!」


 俺は今まで、数多くの信長ものを見てきて、そこでいくつもの感動とであった。だからこそ、自分でも信長ものを書きたいと思ったんだ。それに価値がないなんて、例え相手が本物の信長だって言わせない。

 するとそれを聞いて、信長軍団もよりいっそう勢いを増す。


「嬉しいことを言ってくれるな」

「こんなことを言われたら、我らも情けない姿は見せられん」

「偽者だって何かができるということ、証明せねばな。みんな、いくぞ!」


 誰かのかけ声と共に、信長軍団の攻撃が重なった。おそらく全員が、持てる力の全てをここで出しきるつもりだ。

 それを受け、初めて本物の信長が怯んだ。


「ばかな! ワシがこんな偽者どもに押されているだと。そんなこと、あるはずがない!」


 驚愕する本物の信長に対して、俺は叫ぶ。


「絶対は、絶対にない!」

「!?」


 これは、織田信長本人が言った言葉だ。矛盾していて、だけどどんな困難にも立ち向かっていける力を持った言葉だ。


「この言葉を、信長軍団は一人残らず証明しようとしている。当たり前だよな。だってこいつらは、全員織田信長なんだから。あんたという本物の魂を受け継いだ奴らなんだから!」


 もしも彼らのモチーフが信長でない他の誰かだったら、こんなことにはならなかったかもしれない。だが彼らもまた信長だから、例えどんな困難にも挑んでいく。

 そしてもうひとつ、信長に伝えたいことがあった。


「あんたの生き様が、これだけの信長を作ったんだ! それは、みんながあんたに憧れたからだ!」


 今や大量生産されている信長。だが彼らは何も、信長をバカにしているわけじゃない。むしろ憧れたから、その生き様に感動したからこそ作られた。

 それを、本物の信長に知ってほしかった。自分の影響でこんな凄い奴らが生まれたことを、誇ってほしかった。


 その時、全信長軍団が、最後の一撃を放つ。


「「「我らこそ、織田信長だ!」」」


 どういう理屈かは知らないが、本物の信長を光がつつみ、大爆発がおきる。これが本当に、最後の一撃。全てを出しきった信長軍団は満身創痍だ。

 はたしてこれで、本物の信長は倒せたのだろうか。


 祈るような気持ちで、爆発がおさまり、光が消えるのを待つ。


 だが、光が消えたところに、佇む人影がひとつ。


「そんな……」


 これだけの猛攻を受けて、尚も本物の信長は未だ健在だった。


 これには、さすがの信長達も戦慄の色を隠せない。誰一人として心折れることはなかったものの、全てを出しきった今、どれだけ戦えるかはわからない。


 だがそんな信長達を見て本物の信長は、笑った。


「ふ、ふふふ……ふははははははっ!」


 最初、それは俺達を嘲っているのかとも思った。

 だが違う。本物の信長は、真底愉快そうに笑っていた。

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