第20話 バーツの行方
戦いは終結し、廃神聖王は捕えられた。
チタムは、幽閉されゆく廃神聖王と、すれ違った。
麗しく気高い神聖王ワシャクムートは、挽回を期して、チタムに極秘の甘言の形に唇を動かしたが、チタムは、もちこたえた。バーツのおかげだったのだろう。
バーツはそのとき少し離れたところにいて、横に立つカクパスに質問していた。
「もとからチタムの凶運のからくりも、信頼できる人物だということも、見抜いていたのでござるか? お主の真の、目的は?」
「ここはひとつ、お褒め申し上げたいのです。あなたが初めて、〈存知〉を修正したことを。じっくりと判断したことを。そしてあなたの人を見る眼力が真に開花した今、王国の人事にかかわる部隊で仕事をしないかと、こうお誘い申し上げます。お仕事は実は、なんと、若王の特命です。身分を隠して田舎の貴族の家中や農村に仕えては、人材を判断し、若王に上申して下さるといいのですが……」
「は?」
「あなたにその能力が備わるかどうか、申し訳ないがボクはそれを試験していた、そんな臣下を捕まえることがボクの真意、と言えば真意だったと言えるのでしょうねえ……」
「は…?」
周囲は、負傷兵の手当や、瓦礫の片づけ、修繕、そして炊き出しの支度が、都の全駐屯兵と住民とが総出で、始まっている。
その手伝いに行かねばならないのだが、
「カクパス、お主は、そこそこの貴族の子弟の優等生とは思っておったが、もしや、実は若王のご学友やら、もと乳兄弟やら、そういった、王との特別の間柄の貴族であったのか? しばらくで転属とやら、言うておったし……、いったい、お主は」
ふふ、と月光のように清涼に、カクパスは微笑した。
「カクパスというのは偽名で、真の名は、ムートバラムと申します」
バーツは真っ白になった。
げえっと呻く。
耳を塞いで、聞きたくない、詳しくは聞きたくないでござるよ!と喚くバーツに、カクパスことムートバラムは、
「今まで玉座に座らせていたのは、影武者でしてね」
これまで四年間、幼かった王がカクパスの名で貴族や庶民の生活を覗き見て学び、得難い経験を積むための期間、かわりに玉座に据えられた影武者。
廃神聖王の軍に捕えられたのも、影武者だった。
カクパスが、バーツを誘って王宮の離れの一室へ案内すると、他の特命官吏候補たちの全員が、待っていた。
少し意外だったことに、チタムはそこにはいなかった。
「ボクにとっては残念でしたよ。まだ臣下がそろわないからと理由をつけて、カクパスの姿で自由を味わいつづけてきたのに。最後にあなたまで試練を解決してしまったから、ボクは親政するほかない」
寂しそうに言ったものの、カクパスは泰然として玉座に着座し、空いたハグアル団二十八隊隊長の席に、チタムが任命された。
壮麗にして華やかな戦勝の宴は、先日の宴よりも数倍すばらしく、何日も何日も続けられた。
料理はもちろん、酒倉も開かれ、音楽を奏でる楽師は四十人、演舞を導く踊り手も二十人、奇術や出し物を披露して場を沸かせる芸人も三十余人。
豊かな音の束が、深みと厚みを帯びて多彩に響きあう中、明々とした篝火と、着飾った貴族の男女の宝石のきらめきの中、
「勝利をありがとう!」
晴れやかな若王の颯爽とした姿は、母の死を乗り越えて生まれ変わったようだと、喜んで迎えられた。
戦で負傷した者をまずねぎらい、戦死者をまず弔った王に、誰もが今後も命を賭して仕える思いを新たにした。
バーツは、仲間の皆がチタムを信頼しなおしたのを見届けて、隊から去った。
以降、任務のための変名と変装のおかげで、バーツのその後を追跡することは、余人には不可能となる。
<END>
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この物語はフィクションであり、実在の団体・個人・事件とは一切関係ありません
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ローレン大王国には、〈一目千両〉と呼ばれる絶世の美女がいる。
千両の敵を倒した騎士のみが謁見を許されるという美女は、王国の勝利の女神にして、美の女神となっていた。
主人公シュゼットは、実は絶世の美女などではなく、化粧係ジュリアンの腕で騎士たちの理想の美女に変装させられてきた、平凡な顔の娘だった。あるとき、騎士プロスペールとギャレットが現れ、〈一目千両〉シュゼットは囚われの暮らしから逃亡する。追っ手の
面白い物語を書いていきますので、どうぞ読んでくださいね
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追記
申し訳ありません、次の作品、思い直すところが多く、準備中です。しばらくお待ちくださいませ!
失格戦士と疑惑の勇者/最強勇者に逆徒みを感じたオレのセンスに狂いはなかった……しかし! 春倉らん @kikka_tei
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