第76話 プロジェクト・GKK

「さて、プロジェクトGKKを始動だ」


深夜遅く、街頭の下で郷間が二人の人物――妹の凛音と神木沙也加に向かって力強く宣言する。


「なんです?そのプロジェクトGKKと言うのは?」


意味不明な略称に、神木沙也加が訪ねた。

郷間を良く知っている人物ならば、それが下らない物だと察してスルー出来ただろう。

実際妹の凛音はそうしている。


だが彼女はまだフルコンプリートに入って日が浅いため、それが理解できなかった。それゆえ、無駄な質問をしてしまう。


「ふふ……Gは置いとくとして、K――クレイスちゃんを。K――格好よく助けるの略さ」


Gの部分は語られなかったが、郷間のGであろう事は想像に難くない。

だがそれを伏せる程度には、彼にも良識はあった様だ。


「そうですか……」


神木沙也加が死ぬ程無駄な事を聞いたと後悔するのに、0,1秒と必要なかった。

続ける価値もないと即断した彼女は、その話をさらりと流す。


「凛音さん。マス……勇気蓮人さんの家を見張っている人達の場所は、特定できそうですか?」


「それは安心してください。昼間だったら人通りが多くて難しかったとは思いますけど、深夜帯に外でじっと動かない人なら簡単に特定できると思います」


勇気宅を見張っている不審者の発見は、探索能力を持つ凛音の仕事だ。

今の彼女はレベル4まで上がっているので、その能力でかなりの広範囲を調べる事が出来た。


「調べてみますね」


「ええ、お願い」


凛音が能力を発動させ、勇気蓮人宅の周囲一帯の様子を探る。

探索の際に絞り込むのは野外で目立たない場所におり、かつまったく動きのない人物だ。


「蓮人さんの家を監視してるっぽい人は4人ですね。その中に酔っぱらって、外で酔いつぶれてる様な人がいなければ……の話ではありますけど」


「よし。じゃあ俺が二人ふん縛るから、凛音と神木の二人でそれぞれ一人ずつ押さえてくれ」


少しでも活躍してクレイスにいい所を見せたい郷間は、自分が複数人押さえると宣言する。

だが神木沙也加はそれに待ったをかける。


「いえ、待ってください。監視している人間が能力者プレイヤーの可能性もあります」


郷間の想定は、完全に相手が非能力者だった場合の物だ。


能力者に態々面倒な見張りなんかをさせるか?


そう考えるのが普通ではある。

だが勇気蓮人は高レベルの能力者だ。

そんな人物の家を見張るとなると、能力者がその役割を担う可能性は十分考えられた。


そこを神木沙也加が指摘する。


「もし相手がレベル4以上だった場合、郷間さんや凛音さんでは単独で相手をするのはきついはず。私が3人担当するので、2人は組んで行動してください」


神木沙也加、郷間、凛音。

彼女達3人は全員レベル4の能力者だ。

だが3人の中で、神木沙也加の強さは頭二つ程抜けていた。


幼い頃から剣術を学んできた下地。

それに加え、魔法少女という強力な特殊能力。

更にその魔法少女と相性の良い、オーラウェポンというダブルの能力まで彼女は備えている。


これらの要素が噛み合い、神木沙也加の強さは並のレベル6相手にも引けを取らない程となっていた。


「確かに……万一レベルの高い能力者が相手だった場合、私達じゃ危険ですね。特に兄さんは攻撃能力が無いし」


「むう……でもそれだと俺が格好つけられないじゃないか」


郷間は不服そうに、本音を駄々洩れさせる。


「大丈夫ですよ。クレイスは優しい子です。だからきっと、郷間さんの頑張りは伝わりますから」


神木沙也加は内心呆れつつも、優しく諭す。

その残念な言動に、彼女は郷間がどういう人間かぼちぼち理解できて来た様だ。


「そ、そうかな?」


「うんうん。クレイスさんも、きっと兄さんを見直すわ」


それに凛音が適当に合わせた。

心の籠っていない完全な棒読みだが、幸い郷間は気づいていない。


何故なら――


彼は馬鹿だから。


「じゃあ決まりですね。私はちょっと変身してきます」


神木沙也加は物陰に隠れて変身する。

周囲に人目は特に無かったが、態々そうしたのは――


「とう!魔法少女サーヤ参上!」


その方が魔法少女っぽいと思ったからである。


つまり、彼女もお馬鹿だという事だ。


「さて、それじゃあ悪を成敗しに行きましょうか」


変身を終えたサーヤが監視者達の居場所を凛音から聞き、そこへ向かおうとすると――


「ん、電話だ」


郷間のスマートホンに着信が入る。

その画面を確認すると、そこには愛しのクレイスちゃんという気持ち悪いワードが浮かんでいた。


それを見た郷間が、嬉しそうなニヤケ面で電話にでる。

余程彼女からの連絡が嬉しかったのだろう。


「あ、クレイスちゃん。こんな夜中にどうしたの?」


クレイスが電話したのは、夜中遅くに郷間や他の知り合いの気配が家の近辺で留まっていたからだった。

彼女はそれに嫌な予感を感じた様である。

そしてそれは見事に的中していた。


「あ、大丈夫大丈夫。全部俺に任せてくれれば上手く行くからさ。じゃ、また後で報告するよ」


危ないから監視は放っておいて下さい。

そんな電話越しの言葉を、郷間は軽く流して電話を切ってしまった。


きっと彼の中では何もかも上手くいって、クレイスにうっとりされる妄想でも浮かんでいるのだろう。


「どうかしたの?」


電話に付いてサーヤが訪ねた。

彼女は普段は丁寧語が基本だが、変身中は砕けた喋り方になる。


――何故なら、魔法少女だから。


そう、見た目は大人でも心は100%純粋な魔法少女なのだ。


「彼女は身バレがまずいから動けないけど、頑張ってだってさ」


口から出まかせ――いや、郷間の中ではクレイスの言葉は本気でそう変換されているのかもしれない。


「そう、なら頑張らないと」


「ああ、行こう!捕らわれのお姫様クレイスちゃんを救いに!」


号令と共にサーヤが飛んだ。

そして建物の屋根に着地し、そのまま屋根から屋根へと音もなく跳躍していく。


彼女は困っている魔法少女仲間を救うため張り切っていた。


郷間に騙されているとも知らずに。

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規格外のストラテジー~異世界帰りの勇者、知り合いにばれてダンジョン攻略に駆り出される~ まんじ @11922960

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