現代の怪異たちと、現代の女の子たち

一言で言えば、女の子二人が日本各地を巡って化け物を退治する系。

もう少し詳しく書くと、『幽霊や妖怪を認識できるが為に普通に生きられず苦しんできた主人公が、ある日超天才陰陽師で頭が良く容姿も優れててお金も持ってる(スパダリですね)ボクっ娘に命を助けられ、その怪異退治の旅に同行することになって、その旅先で『黒巫女』と呼ばれる謎の怪異と遭遇しつつ、ボクっ娘の過去が明らかになりつつ、超絶悪い奴らも蠢動しつつ、やがては大事件へ。~百合の香りを添えて~』という感じ。

時代としては今よりわずかに未来。だがらまさにこの国の今この時が描かれています。それはSNSやリモート授業等のプロップに留まらず、物語の形自体に強烈に反映されています。主人公が周りに精神病者として捉えられ薬漬けで排除の対象になっていたこともそうですが、登場人物たちの人格や動機の中に貧困があり、生き辛さがあり、孤独があり、それは怪異たちの姿まで変えているのです。かつて病魔や天災、不幸――脅威の象徴でもあった彼ら彼女らは、本作では猛威を振るいながらもどこか哀れにも滑稽にも感じられました。それは彼らがこの現代という複雑で矛盾に満ちた時代に、無理矢理適応しようと体をギチギチにはめ込んでいるからなのかな、と思います。それはまた傷付き悩みながらも毎日を生きていく主人公の姿でもあり、我々の姿でもあり、毎章、化け物退治のカタルシスと同時に深く感慨の残る物語でした。

また旅物語としても抜群に面白いです。高速道路をフィアット500(ルパン三世の愛車でおなじみ)でぶっ飛ばして、疲れたら運転を交代。サービスエリアに着いたら休憩、目的地まではまだまだ。目指すは岩手は遠野、東京は浅草、そして京都……。移動中という、雑談や一人で考え事にふける、あの退屈で素敵な時間をしっかり満喫できます。それに、辿り着いた先、化け物退治の場面場面をそっと支える情景の見事な描写から滲み出る現地の風情。田舎の静まり、都会の喧騒、観光地特有の活気。仕事や学業に忙しいあなたも、この物語を読めば旅気分を味わえるし、何とか都合をつけて旅に出たくなる筈。

まあ、そんなわけで。
疲れて休憩中のひと時にちょこちょこ読みでも、休暇に腰を据えて一気読みでもふさわしい、現代を生きるあなたにおすすめの一作です!



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