親子で啜る赤いきつねと緑のたぬき
m-kawa
第1話 友情合体、イエローキキ!
『くっ……、こちらの攻撃が通じないなんて……』
『こうなったらあれしかないわね!』
『ええ、そうね。……いくわよ!』
『レッドフォックス!』
『グリーンラクーン!』
『『友情合体……!』』
テレビの中の赤い衣装を着た女性が両手を左右に広げ、緑の衣装を着た女性が両手を上下に広げてポーズを取っている。
先ほどまで苦戦していたようだが、とうとう奥の手を出すようだ。
二人が次第に眩しくなり姿が重なる。するとそこには一人の人物が姿を現していた。
『イエローキキ!』
左右の手のポーズを入れ替えた後に右手を突き上げて天を差す。
肩まで伸びる黄色い髪をたなびかせ、フリルのついた黄色いワンピースを着た美少女がドヤ顔を決めていた。
「……ッ、かっけー!!」
テレビを見ていた息子の大地が興奮したように手を振り上げている。
お父さんにはどこがカッコいいのかさっぱりわからないが、大地には突き刺さったらしい。最近のヒーローものは合体までするのか。……いやロボットが合体するのはよくあるけど、変身後とはいえ人がそのまま合体するとは。
「やったー!」
テレビの中では採石場のような場所で、イエローキキが必殺技を放ち敵を葬り去ったところだ。敵をやっつけた激しい爆発の煙が背景として立ち昇っている。こういうところは昔と変わらないらしい。
「ははっ」
こたつの中で手元の赤いきつねを啜りながら、ちょっとだけ昔を思い返してしまう。
「ねぇお父さん」
「ん? どうした大地?」
同じように緑のたぬきのてんぷらを、いい音を響かせながら咀嚼していた息子がふと振り返った。テレビの中では、レッドフォックスとグリーンラクーンが、戦闘後に赤いきつねと緑のたぬきを食べるといういつものシーンで終わりを迎えていた。いつの間にか合体は解除されていたらしい。
「どうしてレッドフォックスとグリーンラクーンが合体したら、イエローになるの?」
「んん? どういうこと?」
いまいち何を聞きたいのかわからなくて聞き返してしまう。小学生一年生の息子は好奇心は人一倍あるらしく、ことあるごとにいろいろと聞いてくるのだ。
「だって、前に絵の具でお絵かきしてたとき、赤と緑を混ぜたら茶色になったよ?」
そういえばそうだったな。お父さんが好きな赤いきつねと、大地が好きな緑のたぬきを混ぜ混ぜしたんだったか。大地はなぜか白くなると思ってたようでしきりに首をひねっていた覚えがある。
だというのにテレビのヒーローは、レッドフォックスとグリーンラクーンでイエローキキになっているのだ。色はともかく、きつねとたぬきでなんでキキになるんだ。……ってもしかして「き」つねとたぬ「き」ということか?
「絵の具はそうだな。でも色のついた光を混ぜるとそうなるんだよ」
「光?」
「そうそう。ちょっと見せてやろうか」
「……?」
反対側に首を傾げる大地にほっこりしつつ、パソコンの液晶モニタの電源とカメラの電源を入れる。画面にカラフルなロゴが出てきたところで、マクロモードにしたカメラでモニタのロゴを目一杯拡大して写真に撮る。
「ほら大地。これは何色に見える?」
カメラの液晶に写った液晶モニタの写真を見せる。
「白と、赤と緑と青と黄色と、いろいろあるよ?」
そこには大地の言う通り、いろんな色が写っているだけだ。
「じゃあ拡大していくぞ」
カメラの拡大ボタンを操作して、白く見えていた部分を拡大していく。
「あっ! 赤と緑と青がいっぱいになった! 白くない!」
大地が興奮した様子でカメラの液晶と、被写体になった液晶モニタを見比べている。
TFT液晶ディスプレイの1ドットは
「こらこら、モニタに近づきすぎだ。目を悪くするぞ」
裸眼でもRGBの各画素が見えると思ったのか、液晶モニタに顔をくっつけて凝視している。目が悪くなっても困るのでひっぺがえしておいた。
「見えなかった……」
「そりゃそうだ。だからこうやって写真に撮ったんだぞ」
しょんぼりする大地を横目に、カメラの拡大モードを解除する。
「じゃあ次は黄色だ」
「――!!」
黄色という言葉を聞いた途端、下を向いていた大地の顔が勢いよくカメラに向けられる。ワクワクと目を輝かせていて好奇心が爆発しているようだ。
カメラを操作して黄色い部分を拡大していく。
「――あっ!」
そこには赤と緑だけ点灯していて、青だった部分が黒くなっている画像が現れていた。
「イエローキキだ!」
それを見た大地が、さっきテレビで友情合体したヒーローの名前を叫ぶ。
「すごいすごい! だから赤と緑で黄色なんだね!」
「うむうむ。光の色を混ぜるとこうなるんだ。しっかり覚えておきなさい」
よしよしとばかりに大地の頭を撫でてやると、「うん!」と言って大きく頷いた。
「しかし、レッドフォックスとグリーンラクーンはお父さんが子どものころからテレビでやってたけど、ついに合体するようになったんだな……」
「へぇ、そうなんだ。イエローキキはいなかったの?」
しみじみと昔を思い出しながら呟くと、また大地が首を傾げている。
「いなかったなぁ。そもそも昔は悪者をやっつけるテレビじゃなくて、赤いきつねと緑のたぬきのCMだったんだよ」
それが人気になってとうとう特撮ヒーロー番組になるなんて、いったい誰が予想しただろうか。
「えー、CMってつまんないじゃん」
ぶーぶーと文句を垂れるが、子どもにとってはそんなもんだろう。だがしかし。
「でも他にもキャラクターはいたんだぞ。ブラックピッグとか、ネイビーブルーフォックスとか……。あ、黄色いやつもいたな」
「ええっ!? なにそれ! 見てみたい!」
「はっはっは、今のテレビじゃ出てこないもんなぁ」
「ねぇねぇ、どんな格好してたの? かっこよかった? 黄色いのって何?」
お父さんの服の裾を握り締めながら迫ってくるが、ほっこりするだけである。
「そんなにたくさん聞かれても答えられないぞ」
改めて思い返してみるけど、今の時代だと古いものはダサく見えてしまうかもしれない。
「うー、じゃあ、黄色いやつ!」
「黄色か? 確かイエローミートってやつだったかな。ブルーチャンポンとか、ゴールデンドライなんてのもいたっけ」
「えええ!? いっぱいいるじゃん! お父さんずるい!」
「はっはっは」
そういえば当時も定番の赤いきつね食べながらCM見てたっけ。親父は緑のたぬきだったけど、まさかこうして息子と同じことができるようになるとは思ってなかったな。
親父はむっつりした表情で麺を啜るだけで、当時の俺としては自分から話しかけることもあんまりなかったけど。でも出汁に浸りきったてんぷらを食べてるときはちょっと頬が緩んでたっけ。赤いきつね派の俺としても、サクサクてんぷらには勝ちを譲ってやらんでもないと思ってたのに、今でもてんぷらを先に入れる親父の感性は理解できない。
隣を見ると大地がまだ「ずるい!」と文句を垂れている。
サクサク派に育った息子の頭を撫でると、今も昔も変わらない赤いきつねの残りを啜る。
ごちそうさまでした。美味しかったです。
親子で啜る赤いきつねと緑のたぬき m-kawa @m-kawa
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