第03話 つむぎと初めてリアルで逢う

 週末が楽しみすぎて一週間はあっという間だった。

 西陣さんは13時30分着のジャパンエアーでやってくる。

 今日の服装はRINEで伝えたから大丈夫だよね?


 ピーンポンパーンポーン

「到着便のご案内をいたします。東京羽田からのジャパンエアー691便はただいま到着いたしました。」


 あっ、着いたみたい。少し待っていると人がぞろぞろとやってきた。大人の人ばかりの中に明らかに若い女の子が見える。聞いていた服装の通りだし、多分あの人だ。多分、西陣さんって声かけない方がいいんだよね、本名でいいのかな?と悩んでいたら向こうから声がかかった。


「飯出さんですか?」

「はい!飯出です!岡里さんですよね?」

「そうです!今日はよろしくお願いします!」


 髪型はベリーショートで私より少し背が高い。もっと派手な人が来るかな、って思っていたけど、何も知らなかったら普通の女子高生だ。


「早速ですけど、私の家に行きましょう。ここから歩いて行けるんです。」

「そんなに近いんですね。」


 そんな会話をしながら家に向かう。今日はお父さんもお母さんも家にいるので少し遅めの昼ご飯を用意してくれているはずだ。


「ここです!」

「へえ!大きい!」

「宮崎って一階建ての家が多いんですけど、うちは二階建てなんです。」

「そういえば、確かに!」

「ただいまー。西陣さんを連れてきたよ。」

「お邪魔します!」

「ようこそいらっしゃいました。さあ、こちらへ。」


 西陣さんを居間へ案内する。お昼がもう用意してあった。


「食べる前に紹介するとお父さんとお母さんです!」

「初めまして、西陣つむぎです。今日はよろしくおねがいします。」

「西陣さんは盛岡からわざわざ来ていただいたとか。ゆっくりくつろいでくださいね。」

「ありがとうございます!あの、これ、つまらないものですが。」


 そういうと西陣さんは包みをカバンから取り出した。


「あら!?そんな、気を使っていただいてありがとうございます。」

「岩手の名物、南部煎餅です。是非みなさんで召し上がってください。」

「西陣さんは高校生とは思えないな。やっぱりトップクラスのバーチャルMeTuberとなるとしっかりしてらっしゃる。朋夏も見習えよ。」

「わかってるよ!」


 そんな話をしながらお昼を食べる。まさかお父さんがサイン色紙を差し出すとは思わなかったけど……。

 お昼を食べたあとは、いよいよ私の部屋へ案内する時間だ!


「私の部屋です!」

「へえ、ここが配信に使っている部屋なんですね。……あっ、そうだ。なんとなく敬語で話していたけど、良かったらお互いタメでいいかな?」

「えっ、いいんですか?」

「うん!それの方が嬉しい!」

「じゃあ、よろしく!」

「やった!」

「あのオフコラボの前にいろいろと教えて欲しいことがあって……。」

「えっ?なになに?」


 実は、今日のオフコラボをするにあたって、西陣さんの配信をとにかく見まくった。ホダシコイさんとは違うけど、なんか似ている部分もある。それで気がついたんだ。私はバーチャルMeTuberの「お約束」をほとんど知らないって。その話を説明してみたけど通じたかな……。


「そっか!強制ではないけど、確かにそういうのがあった方がいいよね。」

「うん、それでいろいろと教えて欲しくて。」

「じゃあ、今日のオフコラボからいろいろとやってみようよ!」

「うん!試してみる。」

「あと、今日のオフコラボでせっかくだからファンネームの候補からみんなに選んでもらおう!」

「西陣さんのファンばかりだと思うんだけどなあ。」

「日向夏さんのファンになってくれる人も出てくるかもよって、そうだ、呼び方ももっとフランクにしよう!名前を呼び捨てにしちゃおうよ!」

「えええっ!?怒られないかな?」

「ん?だれから?」

「ファンから。」

「大丈夫大丈夫!私、割と名前呼び捨てだもん。じゃあ、へべす、よろしくね!」

「う、うん、つむぎ、よろしく!」


 トップVTuberってこんな感じなんだ!


「そうしたらまず配信に入るときのお約束からだね。最初のあいさつはオリジナルな定型コメがいいよ。私の場合は『こんつむぎー、はい、西陣つむぎだよー。』だね。」

「うーん、難しい……。」


 しばらく話をしていたけど、なんかしっくりこない感じ。


「ひんだれた!なんも思い浮かばん!」


 なんか疲れてくるとつい方言がでちゃうよね!


「あっ!それいいんじゃない!」

「えっ!?何が!?」

「宮崎弁で冒頭のあいさつするの。日向夏もへべすも宮崎特産の果物なんだよね?だったら最初のあいさつも方言で宮崎色を強くしたらいいんじゃないかな?」

「そっか!さすがつむぎ!」

「それと、だいぶ言葉が砕けてきたね!なんか仲良くなれてきている感じがするよ!」

「あっ!そういえば!」

「キャラクターは私たちみたいな高校生が多いけど、魂は社会人の多い世界だから、へべすみたいな同じ学年って本当に貴重でさ。仲良くなれたのが嬉しいよ。」

「えっと、魂って?」

「魂っていうのは、VTuberの中の人のこと。中に人はいないことになっているから、魂っていう表現をするんだ。」

「なるほど!」

「普通のあいさつを方言でするのが一番シンプルだけどインパクトもあっていいかもね。」

「わかりました!つむぎ師匠!」

「なに師匠って!?」

「いろいろと教えてくれるから、私の師匠だなと思って!」

「確かにそうかもしれないけど、つむぎ師匠って呼ばれるのはなんか恥ずかしい……。」

「じゃあ、心の中で呼ぶね!」

「うん、よろしく!」


 配信だけじゃなくて動画も収録して作った方がいいとか、そのサムネイルは文字を目立つように入れてインパクトを出すとか、動画のタイトルもインパクト重視とか、説明文の入れ方とか、収益化の仕組みとか、そんな話をいろいろと教えてもらった。


「私、全然知らないままやってたんだなあ。」

「調べようにもこういうテクニックって内緒にしていて公開していないVが多いからねー。」

「そんな話を私にはしてくれたんだ!」

「私もほかのVにはこんな話はしないよ。へべすは特別かな。」

「そうなんだ!」

「うん、さっきもいったけど、同世代がいないから出来れば一緒にいろんなことしたいからね。へべすの知名度が上がれば、企業案件を一緒にやることも出来そうだし。」

「きぎょうあんけん?」

「うん、知名度が上がるとね。自分の会社で作っている製品を動画で宣伝して欲しいみたいな依頼が来るようになるの。もちろんちゃんとお金をもらってね。」

「へえー!」

「へべすのお父さんは活動に理解があるみたいだから、そういうのが来ても大丈夫だと思うよ。」

「親の許可がいるのかな?」

「許可というか、企業案件はちゃんと契約を結ぶことになるから、親が私たちの代理人として企業側と契約してもらう必要があるの。」

「あっ、そうか!なるほどね。」


 いろいろと知らないことだらけだなあ。


「そうそう、へべすのチャンネルを一通り見てきたんだけど、適当なタイミングで雑談の生配信しかしていないんだね?」

「そうだね、なんか気が向いたときにやる感じだよ。」

「突発もいいんだけど、出来れば定期配信の日付と時間を決めた方がいいかな。」

「そうなの?」

「うん、やっぱり決められた日は必ずやるっていう方がみんな見に来やすいから定着してくれる人も増えると思う。」

「なるほどなあ。いつくらいがいいんだろう。」

「毎週一回曜日と時間を決めるのがいいかな。人が多いのは週末の遅い時間だけど、その分激戦区でもあるね。」

「つむぎは?」

「私?私は毎週水曜日の21時からやっているよ。」

「週の真ん中なんだ!」

「一番なにもない曜日なんだよね。週末はオフコラボがあったり、ファイブトランチの大会があったり、月曜日あたりはその反省会配信に呼ばれたり。」

「そういう考え方もあるんだね。そうしたらつむぎと重ならないタイミングで、木曜日の21時あたりがいいのかな。」

「うん、その辺でもいいと思うよ。私と同じ時間だと水木と同じ時間に続けて聞いてくれるかもしれないよ。」

「つむぎのファンが私のファンになってくれるなんて、そんなそんな!」

「けっこうあるんだよ。二人とか三人とかでよくコラボしていると両方のファンになってくれるとかあるよ。」

「へえー!そうなったら嬉しいなあ。」

「へべすならいけると思うけどね。そうしたら配信の準備もしたいから機材を見せてくれる?」

「いいよ!こっちのパソコン周りに置いてある。いま電源付けるね。」

「カメラはこれか。オーディオインターフェースはこれね。どっちもオーソドックスだけど安定の機材だね。」

「ネットでいろいろと調べたからね。」

「パソコンちょっと触ってみてもいい?」

「うん、いいよ。」

「じゃあ、ちょっと借りるね。」


 そういうとつむぎは何やらいろいろと調べはじめた。なにを確認しているのかな?


「グラボもけっこういいの使ってるし、メモリもちゃんと積んでる。うん、今日の配信はへべすのパソコンが良さそうだね。」

「そんなことも判るんだ!すごいなあ。」

「機材を持ってきたら付けてもいいかな?」

「もちろん!」


 つむぎは、鞄からどんどん機材とかを出してくる。しばらく見ていたらソフトをインストールしたり、なんかすごいことになっている。


「よし、できた。初回起動時にユーザー登録とかがいるから入力してね。」

「えっ!私の名前?」

「うん、この辺の機材とソフトはプレゼント!」

「ええっ!?なんで!?」

「一緒にコラボで配信したいからさ!うちにあるのと同じ機材にしてもらえると変な相性とかを気にしなくていいんだよね。へべすとコラボしていい感じに登録者が増えたらこれくらいの金額すぐすぐ!」

「ありがとう、うれしいなあ。つむぎと並べるように頑張るよ。」

「うん、よろしくね。」


 どちらかというとソフトの方はコラボで配信する時用のものみたい。機材はいままで使っていたソフトでももちろんそのまま使える。なんか反応とかがすごく良いから高いんじゃないかな。つむぎが帰ったら型番で検索してみよう……。

 あとは晩ご飯に呼ばれるまで、新しい機材とソフトの使い方やテクニックをみっちり教えてもらった。ご飯を食べたらいよいよコラボ配信だね!

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VTuber日向夏へべすの道のり 週刊歌らん作者 @weekly_utaran

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