第02話 西陣つむぎとの出会い

 散々だ……。


 Twinsterで告知をしたら、バーチャルMeTuberのそういう情報をリツイストしてくれるアカウントが拡散してくれて、初めての配信に10人もの人が待機してくれたところまでは良かったんだ。


「こここんにちは!ひゅひゅうがなつへへべすでしゅ!」


 緊張の余り、いきなりかんだ。そのあとも手元に話すことをまとめておいたのに見忘れて、しっちゃかめっちゃかになったまま、途中で恥ずかしくなって10分で止めてしまった……。見ていた人の反応が怖いから、今日はもう何も見ない!


 次の日、学校から帰って、恐る恐るMeTubeを開いてみると……30人もチャンネル登録してくれている!昨日の配信は再生数が500を超えてる!

 エゴサなるものをしてみると「良かった」「捗る」というツイストが見つかった。たった二つだけだけど、けなされていなかった。ああ、よかった……。ボロボロだったけど、それがかえって素人っぽくて受けたみたい。

 気分が良くなった私は毎日雑談の配信をするようになった。話題は毎日適当。たまにコメントが流れるのでそれを読んで話をするのもとても楽しかった。


 配信をはじめて一ヶ月経った11月、だいたい毎回10人くらいは見に来てくれて、配信も普通に出来るようになったので、お父さんたちにはバーチャルMeTuberというのをはじめたって伝えた。お母さんはよく判らなかったみたいで不安そうな顔をしていたけど、お父さんはとても驚いた顔をした。


「朋夏にそんなことが出来る知識があったんだな!」

「お父さん?」

「お母さんは余り詳しくないかもしれないが、バーチャルMeTuberっていうのはこれから注目されるんだ。MeTuberは顔を出すからプライベートがなくなってしまうが、顔も出さないし、声も変えるから本人とはわかりにくい。朋夏みたいな女の子がやるにはうってつけなんだよ。でも、パソコンとかの知識がすごい必要なんだ。それを一人でやってしまったのはすごいぞ。」


 お父さんには褒められた。そしてこんな約束をすることになった。


「お父さんは反対しない。むしろ今まで余り趣味とかのなかった朋夏が自分でやりたいと思ったことだから賛成する。ただ、困ったことが出てきたら必ずお父さんに相談しなさい。お金のこと、誹謗中傷のこと、何でもいい。約束できるね?」

「うん!判った!」


 お父さんたちの賛成ももらって、私はだいたい10人、多いときは30人くらいの人を相手に毎日雑談の配信を続ける。たまにゲームもやってみるけど、下手くそすぎてつまらないらしくてゲーム配信だと0人ということもあったので、やらないことにした。


 配信を始めてから3か月も経つと話し内容も同じような内容が増えてくる。少しずつ見に来る人も減ってきて、節分の頃には毎回ほぼ一桁、一人なんていう日も。しかもコメントももらえない配信回ばかりになって、モチベーションが大きく下がってしまった。


「やっぱり、日常が大きく変わってくれたらって思ったけど、ホダシコイさんみたいな世界にはなかなか難しいんだなあ……。」


 それでもいつかは何かあるかもしれない、高校生になったら変わるかも、と思い、頑張って配信を続ける。


 春休みに入ったある日、いつも通り5人くらいの人に対して話をしていると本当に久しぶりにコメントが流れた。


 :日向夏さんは凸待ちとかしないの?


 凸待ち?私はその単語がよく判らなかった。


「勉強不足でごめんなさい。凸待ちってなんですか?」


 コメントを書いてくれた人によるとボイスチャットアプリのIDを公開して、そこに通話を掛けてきた人と話をする、ことらしい。ホダシコイさんはボイスチャットでコラボはしていても凸待ちというのはしていなかったので知らなかった。

 その日はそれで配信を終わらせ、早速必要なものを調べる。今のソフトとかでも出来るけど、以前は買うのを止めたオーディオインターフェースがあったほうが確実にちゃんと音声を合成できていいらしい。

 貯めていた貯金はだいぶなくなってしまったけど、ここまで来たらいろいろとやってみたい。翌日、早速タナカ電機へ行って、オーディオインターフェースを買う。その日と翌日は配信をおやすみして、セッティングをして、いろいろと調整をしてみる。テストをしてみるとどうやらいい感じに出来たみたいだ。

 ふとカレンダーを見ると明後日は4月1日で、配信を始めてからちょうど半年。ぶっつけ本番だけど、ハーフアニバーサリーということで凸待ちをやってみよう!


 Twinsterで告知を流し、今日の配信でも告知をする。Twinsterの告知は、初回配信のツイストをリツイストしてくれたアカウントがまた拡散してれた。誰が見てくれたか判らないけど、凸してくれるのを待つしかない。


 そして、いよいよハーフアニバーサリーの当日になった。つまり私は高校一年生になったということだ。

 いつも通り21時になったところで配信をはじめる。


「みなさんこんばんは!日向夏へべすです!今日はハーフアニバーサリー!記念に凸待ちというのをしてみたいと思います。TwinsterにIDを流すので、良かったら通話をつないでみて下さいね!」


 今の視聴者は久しぶりに30人になっている!嬉しくなりながら、私はIDをツイストする。


「えーと、ツイストしました!……あっ、早速かかってきましたね。出てみたいと思います。もしもし。」

『やっほー!凸待ちと聞いて参上したよ!』

「すみません、お名前を聞いてもいいですか?」

『ふっふっふっー!私は西陣つむぎだよ!』

「西陣さんですか。初めまして!日向夏へべすといいます。よろしくお願いします。」

『えっ!?あっ!?初めまして……。よろしく、おねがい、します……。』

「西陣さんはいつも聴いて下さっている方ですか?」

『ええっ!?あ、今日初めて聴かせていただいています。』

「お初の方ですか!ありがとうございます!Twinsterで見て下さったんですかね?」

「あっ、はい、そうです。流れてきたのをたまたま見つけたので……。」

「凸していただいて本当にありがとうございます!お話しするのがお上手ですが、普段配信とかされているんですか?」

「えっと、バーチャルMeTuberやってます。」

「そうだったんですね!お仲間でしたか!いつもはどんな配信されているんですか?」

「えーと、ファイブトランチですかね。」

「ゲーム実況なんですね!私はゲームは苦手なので雑談配信ばかりしていて……。」


 とここまで話をしていたら同時接続数が1万とかになっていることに気がついた。チャットもすごい勢いで流れている。えっ!何が起きているの!?


「あれ!?えっ!?なんでこんなにたくさんの人が見に来て下さっているんですか?コメントもなんかすごい流れていて読めません!」

『……あっ、もしかして、日向夏さん、本当に私のこと知らない?』


 突然そんなこといわれても!?


「ごめんなさい西陣さん。余り詳しく存じ上げなくて……。」

『ええっ!まさかそんなVがいたなんて!通話はこのままにしておくから、私の名前でちょっと検索してみて。』

「えっ、判りました。調べてみます。」


 西陣さんにいわれるがまま、私は、西陣つむぎ、とスマホで検索してみる。


「……えっ!?チャンネル登録者数68万!?ホダシコイさんとほぼ同時期にバーチャルMeTuberになった元祖に近い人!?ええっ!なんでそんなすごい人がここに!?」

『日向夏さん、その様子だと本当に私のこと知らなかったんだね!凸はけっこうするけど、そんなV初めてだよー!』

「ごめんなさい!勉強不足で本当にごめんなさい!」

『いやー、今回みたいなケースは初めてだから面白いよ!これから仲良くして欲しいかも!私もTwisterやってるから良かったらフォローしてね。』

「はい、ありがとうございます。ちょっと私も何が起きているか判らないので、今日はいったんここで配信終わらせて下さい!」

『はーい、おつかれー!』


 私は配信を終わらせると西陣さんのアカウントをフォローするため、パソコンでTwinsterを開く。西陣さんのところまでたどり着くと……フォローされています!?もうフォローしてくれてるの!?

 とりあえずこちらもフォローしないとだよね。フォローボタンを押してっと。

 ……えっ、DM?西陣さんだ!?


[RINEやってる?やってたら友達登録よろしくー!)


 ええっ!?バーチャルMeTuberトップクラスの人が簡単に連絡してきていいの!?とりあえず登録をしないと……ID検索は初めてだけど出来たかな?……えっ、RINEの着信!?メッセじゃなくて掛けてきたの!?


『もしもし……。』

『こんばんはー!ともかさん!』

『えっ!?なんで私の本名知ってるんですか!?』

『だって、RINEの登録名が思いっきり本名だったから!』

『……あっ!』


 そうだ!RINEなんてリアルの友達としかつながらないつもりだったから本名書いてたんだ!


『私だけ一方的に名前知っているのは不公平だから教えちゃうと私の本名は、おかざといろは、だよ。年齢は公開しているんだけど、今日ちょうど高校1年生になったところ!』

『えっ、西陣さん、私と同い年じゃないですか。』

『そうなの!?同い年のVってほかに聴いたことないからなんか嬉しい!ねえねえ今度の土日、暇?』

『7日と8日ですよね?はい、今のところ大丈夫です。入学式は5日なので。』

『じゃあさ、オフコラボしよ!』

『オフコラボ、ですか?それってどんなことをするんですか?』

『オフ会って知ってる?』

『はい、実際に会うことですよね?』

『うん、それ。実際に会って、配信することをオフコラボっていうんだ。』

『えっ!?オフ会ですか!?何処でですか!?』

『ともかさんは何処住んでるの?』

『私は宮崎です。』

『宮崎……ちょっと待ってね、調べるから。』


 宮崎県って西都原知事のおかげでけっこう有名になったと思ったんだけど、やっぱり知名度まだまだなんだなあ。


『うん、13時半くらいには着けるね。』

『えっ!』


 ええっ!?調べるって県名じゃなくて、こっちへ来る方法!?


『私、住んでるの盛岡なんだけど、新幹線で東京行って、羽田から飛行機で宮崎へ行くと13時半くらいまでには着けるよ。空港で待ち合わせでいいかな?』

『ええっ!?盛岡からいらっしゃるんですか!?お金大変じゃないですか!?』

『えー、これくらい全然問題ないよ。オフコラボにしちゃえば経費に出来るしね!』

『そ、そうなんですね……。バーチャルMeTuberでトップにいる人はすごいですね……。』

『じゃあ決まりだね。チケット予約しちゃうよ。ホテルも予約しちゃおうかな。』

『あっ、それなら、親に聴いてみますので、良かったらうちに泊まりませんか?』

『えっ!いいの!?』

『はい、うち、お客様がよく来るので客間があるんです。お父さんに聴いてみるので、大丈夫かどうかはRINEで返信しますね。』

『うん、わかった!じゃあダメだったらホテルとるね!』


 通話を切ると早速お父さんに状況を説明する。お父さんは西陣さんのことを知っていて、ものすごい驚いていた。しかも同い年といったらさらに驚いていた。うちに泊まってもらいなさい、とお父さんから提案してくれたので、すぐにRINEする。


 [お父さんがぜひ泊まってもらいなさいといってくれたので泊まっていって下さい!}

{やった!ありがとう!]

{私の名前を漢字で送っておくね]

{岡里彩春だよ]

 [私は飯出朋夏です}

{朋夏ちゃん、よろしくね!]

 [こちらこそ!}


 西陣さんはその直後にTwinsterで「なんと!今度の土曜日に日向夏へべすちゃんとオフコラボします!どっちのチャンネルでやるか判らないからTwinsterで確認してね!」とツイストしていた!あっという間に1000リツイストされて、どんどん伸びていく!さすがトップのバーチャルMeTuberってすごいんだなあ。

 週末が楽しみだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る