VTuber日向夏へべすの道のり

週刊歌らん作者

第01話 日向夏へべすが出来るまで

 梅雨に入ってだいぶ暑くなってきた。南国宮崎は梅雨になると本当にジメジメとした感じになる。


「毎日、学校行って、帰ってくるだけの生活って飽きるよね。」

「えー、中学生なんてそんなもんじゃないの?」


 私、飯出いいで朋夏ともかは友達とそんな会話をしながら、家へ帰るために宮崎駅へ向かっている。といっても、私の通う大淀学院中学校は宮崎駅のすぐそばにあるので、そんなに長い時間は話せない。


「そういえば、ともちゃん、昨日教えたムカマンの配信見た?」


 私が住んでいる宮崎県はテレビのチャンネルが4つしかない。うち二つは日本公共放送の総合チャンネルと文化教育チャンネルなので、民放は2つしかないのだ。一応ケーブルテレビで鹿児島のテレビも見られるけど、わざわざ居間で親と一緒に見たいとも思わない。それで学校ではみんなMeTube動画共有サイトの配信を見ている。


「見たけど、私はいまいちだったなあ。」

「飯出さんはけっこう配信の好み難しいよね。」

「そうかなあ。」

「そういえば最近バーチャルMeTuberっていうのが出てきたんだってね。」

「知ってる!ホダシコイだよね!すっごい、おもしろいよ!」

「へー。」


 帰ったら調べてみようかな。

 私は日南線を使っていて、友達は二人とも日豊線なので駅でお別れ。


「ともちゃん、またあしたね!」

「飯出さん、バイバーイ!」

「ふたりともじゃあね!」


 列車に乗って二駅の田吉駅で降りて、家に帰ると誰もいないのでそのまま2階に上がって自分の部屋に入る。両親は共働きで、お父さんは日向信用金庫の本店、お母さんは空港近くの青戸支店にいる。要するに職場結婚した二人ということ。お兄ちゃんは今年の春に渋谷学院大学へ入学して、いまは東京で一人暮らしをしてる。


「愛ちゃんがいっていたホダシコイってどんな人なんだろうなあ。」


 制服からルームウェアに着替えて、スマホを充電器にさして、MeTubeを開く。


「ホダシコイっと……あっ、これか。」


 動画を再生してみるとアニメのキャラクターみたいなかわいい女の子が話している風景があった。


「これ、すごい!」


 私はそこから毎日のようにホダシコイさんの動画を再生しまくった。トークも歌も上手くて本当に引き込まれてしまう……。


 7月に入っても学校と家の往復の日々。部活でもやれば良かったのかもしれないけど、特に興味のあるものがなかったんだよね……。そんなこんなで夏休みに入る。普通の中学三年生はきっと受験勉強なのだろうけど、私は中高一貫の私立学校に通っているので、普通に過ごせる夏休みだ。

 ホダシコイさんは毎日のように動画をアップロードして、配信をしているので、今まで見ていなかった動画がまだまだたくさんある。そんな感じで夏休みの間中、宿題をこなしながらホダシコイさんの動画を見続ける日々を送った。もちろん、それだけじゃなくて、友達と南宮崎駅前のサークルテンでボウリングをしたり、宮崎駅で待ち合わせをしてジャストモール宮崎で映画を見たりして遊んだよ!


 9月に入って学校と家の往復の日々を送る中、また私は一つやりたいことが出来た。


「私もこの世界に入ってみたい。どうすればいいんだろう?」


 ゴッゴル検索サイトでいろいろと調べてみたけどパソコンがいるのかあ。ま、そうだよね。それとマイクとカメラはわかる。あとは、おーでぃおいんたーふぇーす?ぐらふぃっくぼーど?なんだろう?なんかとりあえずそういうのがいるんだね。そして大事なのがアバター、か。それと何をしたいのか、が大事なんだね。ホダシコイさんみたいになりたいけど、ゲームは得意じゃないから雑談かなあ。とりあえずいろいろと買わないといけないことは判った。夏休みに入ったら時間が出来るからいろいろと買って試してみよう。


 まずは絶対に必要なパソコンを買って、ネットにつなげてみよう。歩いて10分くらいの所にあるタナカ電機に行けばいいかな。晩ご飯の時にお父さんとお母さんにパソコンを買いたいと話してみよう。

 私はこれまで特に趣味もなかったからお小遣いもお年玉もほとんど貯金していて、それなりには持っている。ちなみにお小遣いは小学1年生の時に1000円をもらってから毎年1000円ずつ上がっていていまは9000円になった。


「お父さん、貯めていたお小遣いでパソコンを買いたい。」

「朋夏、突然どうした?」

「いろいろと調べていてプログラムとかしてみたいんだけどスマホだと出来ないから。」

「朋夏のお金だから、計画的に使うのであれば使えばいいと思うよ。お母さんはどうかな?」

「ええ、欲しいと思うなら貯めているお小遣いの範囲で買う分には問題ないわよ。」

「ありがとう!じゃあ、タナカ電機行って買ってくるね!」


 お父さんたちの許可も出たので、次の日に早速、宮崎駅で貯金から20万円を下ろして、家にいったん帰ったあと、タナカ電機へ行ってみる。こんなすごい金額を持ち歩くのはドキドキするけど、クレジットカードなんかもちろん持っていないので仕方ない。

 タナカ電機にはパソコンコーナーがちゃんとあった。バーチャルMeTuberといってもきっと店員さんは判らないような気がしたので、MeTubeで配信するための機材が欲しいと伝えてみる。けっこう詳しい店員さんだったみたいで、ゲーム実況をするのではなく普通の配信ならそんなにすごいぐらふぃっくぼーど?はいらないとか、おーでぃおいんたーふぇーす?も特に不要とか教えてくれた。それで、結局、モニタと初心者用のゲームパソコン、ボイチャ用マイク、メッセアプリ用カメラ、ラン?ケーブルを買って、家まで送ってもらうようにした。全部で17万円くらいだったので下ろしてきたお金で足りて良かった。


 タナカ電機でパソコンを買ってから3日、今日はパソコンが届く日だ。家に帰るとケーブルテレビのインターネットからランケーブルを部屋まで引っ張ってみる。10mのケーブルにしたので無事に部屋まで届いた。でも、扉が閉められない……。どうしようかと思っていたら宅配の人がパソコンとかを持ってきてくれた。玄関から自分の部屋まで持っていくのはなかなかに大変だったけど、なんとかたどり着き、勉強机にパソコンとモニタを置いて、マイクとカメラをセットしていく。

 とりあえず扉を開けたまま、スマホで確認しながらパソコンが使えるようにいろいろと試してみる。インターネットが使えるようになるまで30分くらいかかったけど、無事にMeTubeとかスマイルとかが見られるようになった。

 線がけっこう邪魔なので一回パソコンの電源を切って、ランケーブルを抜いておく。パソコンの電源の切り方は技術家庭科でやるからね、もちろんちゃんと知っているよ!


「お父さん、パソコンが届いたからランケーブルっていうのをインターネットから部屋までつないだんだけど扉が閉まらなくなっちゃった。」


 晩ご飯のあと、お父さんにそんな相談をしてみる。


「これならこの家を建てたときにLANの差し込み口を朋夏の部屋にも用意してあるぞ。」

「えっそうなの!?」


 いま住んでいるのは5年前にお父さんが建てた一軒家。周りの家はほとんど平屋なんだけど、二階建てになっている。一階にはリビング・ダイニング・キッチン・トイレ・お風呂のほかにお客様がよく来るので客間が2つある。二階にはお父さん・お母さん・お兄ちゃん・私のそれぞれに部屋があって、さらにお風呂とトイレもある。お客様が来ているときは一階のお風呂を使うから私は普段から二階のお風呂を使っている。


「部屋入っていいならつなぐぞ。」

「お父さん!お願いします!」


 お父さんは二階の押し入れからケーブルを取り出すとまず二階に置いてあるインターネットの機械と壁をつないだ。そのあと、勉強机の隣にある蓋を開けて私が買ってきたランケーブルをつなぐとパソコンにつないでくれた。


「ほら、これでパソコンを立ち上げてみて。」

「うん。」


 私はパソコンの電源をつけて、インターネットを開いてみる。


「あっ!アフーが開いた!」

「これで大丈夫だな。余り夢中になって夜更かししないようにな。」

「わかった!ありがとう!」


 お父さんの協力もあって、インターネットが出来るようになった。次はアバターかな。最初いろいろと調べていたときに出てきた解説ページを見ると顔の動きをキャプチャしてくれるFacialOperationというアプリとRealTime2Dというアプリを組み合わせればいいらしい。どちらもお金がかかるけどそんなに高いものではないので買ってみる。Vapourというオンラインゲームアプリストアにつないで、コンビニで買ってきたインターネットマネーで……買えた!

 よし、そうしたら次は買ったアプリを動かして、日本語にして……アバターはとりあえずFacialOperationというのが提供してくれているものをつかってみよう。あとは背景を緑色にして、カメラと連携させて……あっ、出来た!えっ、けっこう簡単にできちゃった。顔が動くとアバターが動く!面白い!


 これをMeTubeで配信するのはどうしたらいいんだろう?

 えーと、まずはMeTubeにユーザ登録だね。あっ、バーチャルMeTuberとしての名前がいるんだ!宮崎っぽいものがいいよね。なにがいいかなあ。青島、ソテツ、大淀川、地頭鶏、冷や汁、飫肥城、高千穂……うーん。あっ、もうこんな時間だ!今日はここまでにして寝ないと。


 朝起きると今日は土曜日だけどお父さんもお母さんも近所の寄り合いで出かけている。信用金庫に勤めていると地元の人との交流はとても大事みたい。

 朝ご飯を食べたらもうすぐ夏休みもおしまいだし、夏休みの宿題をできるだけ済ませてしまおう。実は勉強はそれなりに出来る。学年でもいつもほぼTOP10に入っている。椅子に座って勉強するのが好きではないので、小さなテーブルに座布団を置いてそこで勉強している。私の部屋は結構大きい。8畳?あるそうだ。

 お昼を挟んで、3時過ぎまで掛けて英語の宿題を終わらせる。喉が渇いたので一階まで降りて、キッチンの冷蔵庫を開けて飲み物を探す。うちはいつも日向夏ドリンクと平兵衛酢ドリンクが常備されているけど今日もあるかな?お父さんは日向夏、お母さんは平兵衛酢がすきなんだよね。……あっ!両方とも宮崎の特産品だし、これを名前にしたらいいんじゃない?ひゅうがなつへべす、へべすひゅうがなつ、うん、ひゅうがなつへべすのほうがいいやすいな。全部漢字だとなんか硬いから日向夏へべす、あっ、これなんかかわいい!これにしよう!


 部屋に戻ると早速、日向夏へべすの名前でいろいろと登録をしていく。そのあと、配信をどうすれば良いかを調べてみたら、FreeBroadcastSystemという無料のアプリが出ていることが判った。解説ページもあったのでこれでいけるかも!録画で設定に問題がないか確認できそうなので配信の前にいろいろとやってみたらそんなに難しくなく出来てしまった。だけど気がついたらもう7時近い。お父さんたちももうすぐ帰ってくるよね。今日はこの辺にしよう。


 その後も毎日のように家に帰ると宿題と予習をしたあとに配信のためのテストをする。背景が単色の方が認識しやすいとか、手の動きが見えた方がリアリティが出るからキーボードの設定をするとかいろいろと修正をしてみた。

 それと同時に使っている機材についても勉強する。グラフィックボードは映像の処理で大事、オーディオインターフェースはゲームとかチャットとかの音声と自分が話しているのを混ぜるのに大事、などなど。ボイスチェンジャーも使いたかったけどちょっと値段が高かったので止めて、声色を変えてみることにする。


「こんにちは、日向夏へべすです!」


 何度か発声していると無理なく声が出せて、けっこう違う感じに出来たのでこれで頑張ってみよう。

 あとはTwinsterも日向夏へべすのものを作った。個人のものもあるけど、そっちは友達とつながってるから別にしたいよね。


 よし、これで準備万端かな!10月1日がちょうど日曜日でお父さんたちも寄り合いの旅行でいないからこの日からいよいよ配信をしてみよう!いきなりたくさんの人に見てもらえるとは思っていないけど、この日常が少しでも変わることを願って!

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