間違いだらけの仮装パーティー

烏川 ハル

間違いだらけの仮装パーティー

   

 高校時代はゲームばかりやっていた僕も、大学生になったら、それなりに人付き合いをするようになった。

 一人でゲームをするより、みんなと飲み会でワイワイ騒ぐ方が楽しい。これを昔の僕が見たら「リア充だ!」と言うのかもしれない。

 もっとも、そんなリア充っぽい世界に僕を引き摺り込んでくれた安田とは、まずオンラインゲームの中で知り合って、それから同じ大学と知ってリアルでも友人になって……という流れだった。僕の本質は、昔と変わっていないのだろう。


 しかし。

 こうしてせっかく、みんなとリアルで遊ぶのを楽しめるようになったのに!

 外出自粛が叫ばれるご時世となったため、なかなか飲み会も開けない!

 そんな悶々とした気持ちで毎日を過ごしていた、10月下旬のある日のこと。

 安田から電話で誘われたのだった。

 仮装パーティーをしよう、と。


 最初「かそうぱーてぃー」と聞いて、何のことだかわからなかった。

 でも「こんな時だからさ」という言葉で、すぐに理解できた。なるほど、リア充イベントとしては、ハロウィンパーティーの時期じゃないか!

 つまり、コスプレして集まろう、ということだ!

「おお! どんな格好で行くか、ちょっと考えてしまうよ」

「大袈裟だなあ。普通に、なりきり遊びだろ?」

 なるほど、ハロウィンのコスプレというのは、確かになりきり遊びなのだろう。

 僕にとって初めての仮装パーティーであり、コスプレ衣装なんて一つも持っていない。でも冠婚葬祭で着る黒服に、簡素なマントや牙などのおもちゃを買ってきて組み合わせれば、吸血鬼の仮装くらいは出来そうだ。

「じゃあ、明後日の夜。いつもの川原で、待ってるぜ!」


 いつもの川原、と言われて「おや?」と感じたのは一瞬だけだった。

 もともと僕たちは、誰かの部屋で飲んだり、居酒屋に入ったりする他に、大学近くの川原で遊ぶことも結構あったからだ。

 しかも今は、こんなご時世だ。居酒屋の多くは営業自粛中だし、かといって個人の家に集まるのも相応しくない。ハロウィンパーティーならば、狭い部屋の中より、広々とした野外の方が良さそうに思えたのだ。だから納得して、いつもの川原へ向かったのだが……。


 いざ到着してみると、まだ安田は来ていなかった。

 仲間が一人、小さな茣蓙ござを敷いてポツンと座っている。栗山という名前の男だ。

 卑屈に背中を丸めて、せっかくのパーティーだというのに、擦り切れたシャツを身に纏っていた。缶切りで蓋をくり抜いた空き缶もあり、中には小銭が少し入っている。

「やあ、栗山。それ、何のコスプレなの? もしかして、物乞いのつもり?」

「コスプレ?」

 怪訝そうな顔で聞き返してから、栗山は続ける。

「お前、何言ってんだ? 下層かそうパーティーだろ? だから敢えて、みすぼらしい格好で来たんだぞ」

 おいおい、とツッコミを入れたくなった。

 普通「かそうパーティー」と聞いて「下層パーティー」という言葉は出てこないだろう。結果的には物乞いの仮装になったから、仮装パーティーの趣旨には反していないけれど。

 苦笑いを浮かべたところで、後ろから声をかけられた。

「よう、お前ら! ちゃんと道具は持ってきたか?」


 振り返ると、黒いスーツ姿の茂木が来ていた。おもちゃのマシンガンのような物体を抱えているのは、兵士あるいは銀行強盗のコスプレだろうか。

「茂木、それは何だ?」

 栗山の質問に、茂木はニヤリと笑って、マシンガンもどきの引き金を押す。

 すると、先端からゴーッと炎が吹き出した!

 おもちゃじゃなかった!

火葬かそうパーティーって聞いたから、自慢の火炎放射器を持ってきたぜ! さあ何を燃やすんだ?」

 火葬がしたいなら葬儀場へ行ってくれ。よりにもよってパーティーでやることじゃない。

 いくら川原とはいえ、一歩間違えれば火事になる!


 続いてもう一人、同じように危ないのが来た。

 おっちょこちょいの富永が、火のついた松明たいまつを手にしているのだ!

「あれ? 火槍かそうパーティーって聞いたんだけど……。違うの?」

 その松明たいまつ、火槍のつもりだったのか。

 火槍なんて、それこそオンラインゲームの中だけで十分だろ!


 勘違いの男ばかりが集まる中、ようやく女性もやってくる。

 いつもは地味な涼子さんだが、仮装パーティーだけあって、今日は派手な格好だった。

 黄色い花柄のドレスを着て、頭の上にはシロツメクサの花冠。さらにバラを一輪くわえている。唇から少し血が出ているのは、バラの棘でやられたのだろうか。

 涼子さんは、僕たちを不思議そうに見回してから、バラを吐き捨てた。

「もしかして私、間違えちゃった? 花草かそうパーティーじゃないの?」

 そんなパーティーがあるものか!


 その後。

 いつまで経っても安田が来ないので、電話してみると……。

「お前ら引くわー。コロナで大変な時に、リアルで集まっちゃダメだろ」

 彼はオンラインゲームの中で、ギルドメンバーが来るのを待っていたという。

 僕たちのギルドの小屋がある川原で。

 ゲーム世界の凄腕剣士になりきって。



 結局、仮装パーティーと思った僕も間違っていたのだ。

 本当は、仮想パーティーだったのだから。




(「間違いだらけの仮装パーティー」完)

   

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間違いだらけの仮装パーティー 烏川 ハル @haru_karasugawa

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