謎解きはお味噌汁を作る間に ~孫娘と失敗する部長編~

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

「千夏、おはよう。」

 私が五時半に起きると、婆ちゃんはもう食卓に座っていた。

 「婆ちゃん早い!直ぐ作るね。」

 制服の上にエプロンを付けて、朝の支度をする。

 ご飯やおかずはもう出来てる。あとはお味噌汁だけ。

 『朝ごはんのおかずとご飯は婆が、お味噌汁は交替で作る。』

 それがウチのルールだ。


 お湯を沸かして粉末出汁を入れる。

 ウチにはお味噌汁以外にもう一つ、ルールがある。

 「この前食べた冬瓜の炊きもの作った料理部の部長、最近何時も焦げ臭いの。話訊いたら、『料理上手いのに、家だと何故か失敗するんだ』だってさ。

 何でだろ?」

 お味噌汁を作りながら婆ちゃんに気になった事や不思議な事を話すというものだ。

 「んー?あの冬瓜の子が部長かい?料理上手だっただろ?」

 「物凄い出来る。

 イケメンだし、綺麗好きで、勉強出来る、一人暮らしで料理が旨い。」

 出汁に油抜きした油揚を入れる。

 「部長の写真、有るかい?」

 「あるよ。婆ちゃんスマホは使える?」

 料理を中断して婆ちゃんに部長の写真を出したスマホを渡す。

 「こんなもん、昔の同僚が使ってた奴に比べたら玩具さ。

 あー、左から3番目の子だね?

 ったくしょうがない。」

 手馴れた様子でズームして、集合写真に写っていた部長を言い当てた。

 「何で解るの?凄い。」

 手を洗った後で豆腐を切りながら驚いた。

 「この子だけ他の子と比べて手が黄色っぽい、歯が異様に汚い。

 こりゃぁ多分タバコさ。

 ったく、料理で焦がしたなんて言い訳が通じると思ってんのかい?」

 「えっ、タバコ?」

 透き通る出汁に味噌を溶かし入れながら信じられない言葉を聞いた。

 「タバコ吸って煙臭い。ヤニで歯が汚い。指先がヤニで汚れる。よくある話さ。

 この前食べたけど、あれだけの冬瓜炊けるなら、自分家だけで失敗する訳無いだろ?千夏に訊かれて苦しい言い訳したんさね。

 綺麗好きでこのザマじゃ、相当吸ってるね。はぁ…死ぬ前になんとかせにゃ…。」

 そう言って固定電話で誰かに連絡した。

 「あぁ、署長出しとくれ……………………小山田!ウチの孫の学校で喫煙防止教室やんな!大至急だ。さもなきゃアンタの秘密ばらすからね!」

 早朝に超一方的に話をして、電話を切って、何事も無かった顔をして座り直した。

 「一人暮らしで誰も止める奴が居ないんだろうね。ったく…あと数年くらい禁煙しなさいな。」

 こうして、私の作ったお味噌汁を飲みながら、元警視総監、元名探偵のウチのお婆ちゃんは謎解きを終えた。

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