十数年後、群馬県
「ねえアサヒ、クルマ買うんだって?」
「うん、そう」
「何買うの?」
「スバルのインプレッサ。シルバーのやつ」
「へぇ、インプレッサ?どうしたの急に。今の軽はどうするのよ」
「あれは売るよ。まあ、値段つかないだろうけど。実はクルマのために貯金してたんだ」
「そうなの?まぁ確かに、デート以外でお金使ってるところは見たことなかったけど…クルマ趣味なんて、知らなかったなぁ」
「クルマ趣味…っていうか、昔憧れてたクルマなんだ。色々あってね」
「えっ……ってことは、ひょっとして古いクルマ買うわけ!?」
「そうだよ?……え、嫌かな」
「そりゃ古いクルマで喜ぶ人はあんまり居ないって。ちなみにそれ、いつのクルマよ?」
「確か……えぇと……平成8年」
「12年も前のクルマじゃない!!」
「まあ、古いよね」
「いくらで買うの?」
「よく壊れるクルマらしくってね…こだわったり修理したら、120万円くらい…」
「中古ならミニバン買えるじゃないの!」
「いいじゃないか、憧れのクルマだったんだ。年食っただけのダメな大人が乗るには、最高のクルマなんだよ!」
「何それ、意味わかんないわ」
「わかんなくて結構結構。ところで、頼んでたやつ借りてきてくれた?」
「あぁ、『残響の八月』?あったにはあったけど、15年も前の邦画なんて置いてあるところ全然なくて、探すの滅茶苦茶大変だったわ。後で埋め合わせしてよね」
「わかったわかった、ありがとう。納車したらドライブでも行こうよ、赤城あたりにさ」
「なんで赤城」
「なんとなく…かな」
「意味深ね」
「そうでもないよ」
「本当にぃ?」
Fin
駄目な大人と生意気少年 @IrmcherTurbo
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