愛したい人を、心のまま愛する。この上なくシンプルなことの難しさと尊さ。

主人公の一ノ瀬紡くんは、高校進学とともに予想外の展開に衝撃を受けます。それは、特進クラスから普通クラスへのランクダウン。中学校の三年間ルームメイトかついい友人として過ごした西条奏多くんとも離れなければならず、新しいルームメイトの稲沢航平くんは何とも独特なキャラクターの持ち主。大きな落胆と屈辱感を抱えつつ、彼は高校生活をスタートさせます。
それまで、勉強に励み良い成績を収め、いい大学、いい会社へと進み素敵な女性と結婚し幸せな家庭を作ることが自分の未来であり、それを「普通」と思い込んでいた紡くんですが、航平くんとの出会い、そして演劇部への入部を境に、彼の価値観は次第に大きな変化を見せていきます。
それまで自分は「普通」だと思い込み、そうありたいとしがみついていた価値観。けれど、航平くんと出会い、彼の明るさや可愛らしさに次第に惹かれるに従い、彼は自分の中に違和感を感じ始めます。いくら軌道修正をしようとしても、それまで考えていた「普通」から遠ざかっていく自分自身に焦る紡くん。けれど、以前親しかった奏多くんが航平くんのことを嘲り嗤っている様子を目撃した紡くんは、それまでの自分の価値観をとうとうぶち破ります。「普通」が正しいのではなく、大切な人を大切だと思い、その人と寄り添い合うことの方が自分にとって遥かに大切なのだと、紡くんはそこではっきりと気づきます。

現在、第四部まで読了したところですが、自らの価値観を構築中である初々しい高校生達が、周囲の「常識」や「偏見」と真っ直ぐに向き合い、自分にとって本当に大切なものは何かを見極めようとする真摯な姿勢に、読み手は強く心を揺さぶられます。物語はここから演劇部でのガチな演技練習が始まるところに差し掛かっていますが、彼らがここからどんな努力を重ね、それぞれの心をどう成長させていくのか。ますます楽しみです。
大切な人のことを、大切にする。愛したい人のことを、心のままに愛する。この上なくシンプルなことの難しさと尊さをじっくりと細やかに綴る、爽やかで温かいBL長編。おすすめです。

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