第10話「ハードルを下げよう」
かつては「高学歴、高収入、高身長」という、いわゆる「3K」という言葉が流行っていたそうな。
しかし平成の時代に入り、徐々にパートナーに求める条件が低くなった。長引く不景気、将来への不安……そんな中で「3K」のような超高級物件を求めるには、砂漠の中から砂金を見つけるに等しい行為。よしんば見つかったとしても、そんな物件はほとんど同じ条件のパートナーを見つけてたりする。
さておき今の時代。自分のような病気持ちの聴覚障害者じゃなくても、「生きる」ことへのハードルが高くなっている。衣食住はもとより、満足に学ぶ権利も保証されていないという現実がニュースを通して見かけることがある。
「大学に行きたくても行けない」という声を聞くと、自分がいかに恵まれた立場にあったか、思い知らされる。私事になるが、大学ではひたむきに勉学に励んでいたタイプでもなければ、かといって遊びっぱなしだったというわけでもない。資格のひとつも取れてないし、中途半端だった。
今のご時世、「やはり大学くらいは出ていないと(就職は厳しい)」という意識は根強く残っている。高卒だと、ろくな仕事にありつけないというイメージはまだあるのかもしれない。
大学に行って、勉強して、就職して……というお決まりのコースイメージがいつまで経っても続いている。「その先は?」と聞かれて、満足に答えられる若い人がどれだけいるのだろうか。
決まった時間に起きて、決まった時間に家を出て、満員電車にぎゅう詰めされたりして、決まった時間に働いて、クタクタの状態で家に帰って、(一人暮らしだと)なんとか家事をこなして……の毎日。
「生きる」ことよりも、「働く」ことが優先になっている。悪いことではないのだが……それで体や心を壊す人が後を絶たない。
なぜだろう。
自分は気楽に生きる、ということがどうしてもできない。手を抜けないと思って、肩に力を入れ過ぎて、張り切りすぎて、結局心身を壊した。今もその性分が抜けきれておらず、再就職できたとしても、また無駄に頑張ってしまうのではないかと危惧している。
「生きる」ことは大変だ。自分一人の世話をするのもしんどい。
そんな時、「生きることへのハードルを下げられたらなぁ」と思うことがある。
別に働けなくてもいいじゃないか。
家事をしなくてもいいじゃないか。
疲れてるのに、無理やり書かなくてもいいじゃないか。
そんな感じ。
働けなくたって、障害年金がある。ギリギリだけど。
毎日レトルトはさすがに嫌だけど、週に一食ぐらいは手抜きしたい。
毎日書かなければという思いはあるけれど、煮詰まるのが嫌だから、外に出たりプラモ組み立てたりしたい。
そうやって少しずつハードルを下げて、「~しなければいけない」という思考の枠組みを取っ払えたらなと思っている。これを書いている今だって、「新人賞に投稿する予定のものをさっさと書かなくてはいけないのでは」という思いが頭の後ろを引っ張っている。
仕方ない仕方ない。煮詰まっているんだもの……と自分に言い聞かせてる。
「生きる」上でハードルを高くしているのは自分か。
それとも他人か、世間か、社会か……
それは人によりけりだけれど、一度は立ち止まって、回り込むなりして、ハードルの高さを確認した方がいいのかもしれない。真正面から見るのと、遠くから見てみるのとでは、案外印象が異なったりする。
「すみませーん、ちょっとこのハードル高いんで、もうちょっと下げてもらってもいいですかー」と気軽に声を上げられたらいいのにね。
ふと、夜が怖くなって 寿 丸 @kotobuki222
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