第9話「自分に疲れるとは」

 日々の生活に疲れる。


 生きていることに疲れる。


 人生に疲れる。


 自分自身に疲れる。




 上記三つは学生生活や仕事を目まぐるしくこなしていれば、嫌でもわき上がる感情。


 でも、「自分に疲れる」という感覚にピンとくる人は……多いか少ないか、自分には見当つかない。なので今回は、「自分に疲れる」ことに焦点を当ててお話できればと思う。



 自分に疲れるというのは、いわば自己嫌悪の一種の表れ。それも、長年蓄積したもの――記憶、感情、性格、経験、資質、能力、そういったものが複雑に絡み合って、やがて自分の限界を知った上での、言葉としての表れ。


 何かを改善しようとか、

 今の状況を変えようとか、

 明日からきちんとやろうとか、


 そういった前向きなエネルギーが消失しつつある状態。

「今さらもう変えられない」と、半ば諦めに入っている状態。

 もしくは何度も挑んでいるのに、うまくいかないことが続いている。自分の限界が見えてきているのに、それでいて諦めきれない状態。


 性(さが)とも呼ぶかもしれない。

 業(ごう)とも呼ぶかもしれない。


「自分に疲れる」とは一見後ろ向きな言葉のように思えるが、夢や目標に向かってまっしぐらに走り——その途中でふと現実が見えてしまった人間の言葉でもある。


「ここまで来たんだ、最後までやれるはず」

「ここで諦めたら、今までのは一体なんだったんだ」


 自分の努力を、積み重ねてきたものを無駄にしたくない人ほど、自分に疲れてしまう。自覚的であればあるほど、自分のやってきたことが徒労に終わるのではないかという恐怖に苛まれる。




 もちろん上記に関係なく、「自分に疲れる」パターンは色々ある。


・人付き合いを大事にしたくて、自分をおろそかにしている


・仕事に育児に家事に……と手が回らず、そういう自分が望んでいた姿なのかと自問してしまう


・思うようにノルマが果たせず、出世の見込みもなく、恋人もおらず、趣味といえるものもなく、帰って寝るだけ


 ※今挙げた三つは単なる例です。




 かくいう自分も、自分自身のことが嫌でたまらない時期は思春期を過ぎたのでもう終わったけれど、それでも自分という人間に疲れることはしょっちゅうある。


・家事をまんべんなくこなさないと、気が済まないところ。手抜きができない。


・「やらなくちゃいけないこと」は頭にあるのに、「やりたいこと」が浮かんでこないこと。使命感や義務感ばかりが優先している。


・小説を書くにあたっても、自分が楽しいか、面白いかという視点をあまり大事にしていない。人の目ばかり、人の評価ばかりを気にしている。


 そんな自分に疲れる。しかも年中。




「もう少し気楽に生きられたらいいのに」と思うことは、しょっちゅうある。


 家事の手を抜く。


 一日3000字とか5000字とかじゃなくて、1000字書けただけでも偉い! と自分を許す。やることやったらゲームとか、プラモの組立をやっちゃえばいい。


 そう思っても、なかなかできない。パソコンが目に入ると、何も書いていない自分に気がつくと、途方もない罪悪感が芽生える。書けば書くほど疲れるのはわかっているのに、書かなければいけない……


 そういう自分に疲れることも、ある。




 けれど、小説が書き上がった時の喜びは何物にも代えがたい。短編でも、長編でも、何かをやり遂げたという感覚は何度味わっても慣れないもので、だからこそもう一度あの感覚を……と追い求めてしまうのかもしれない。


 なんだか途中から物書きの性(さが)について語ってしまっている。





 今の自分に疲れを感じるようならば、いっそ自分を捨てた方がいいのではないか、と考えたことがある。つまり筆者の場合なら、「書く」ことを一度放棄してみるということだ(もちろん、うまくいかなかった)。


 ただ、なんにしても自分とは永遠に……それこそ死ぬまでつきまとう存在。


 自分に疲れるということは、もしかしたら自分との付き合い方をわかってないからなのかもしれない。どうすれば楽になれるのか、どうすれば気持ちよく過ごせるのか、どうすれば集中して物事に励めるのか……



 自分を知る努力をしていない人間ほど、案外自分に疲れるのかもしれない。



 そう思った今日この頃。

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