8話 二つの名前(スキル)
目の前の少年、俺と同じ超上級スキルを持つ転生者は、自らのスキルを「即死の力」と言った。
確かにそんな力があれば、色んな場所で聞いた大量殺戮のウワサにも納得が行く。
人の命を奪う事だけが目的であれば、1人で行動していてもさして苦労はない。
なんたってこいつは、1度に大量の人間を即死させることが出来るのだから。
そうなると、なぜそんなコトをしているのかって疑問が残る。
…ファナスの能力を頼って聞き出すか?
いや、敵の即死の能力が計り知れない以上は、安易に味方に指示は出せない。
そもそも、俺以外に意識を向けさせたらまずい。
超上級スキルでの戦いなんだから、俺が何とかするしかないんだ…落ち着け。
俺の《アトミックフレア》で無力化してからの方がいいか。なら速攻で、できるなら一撃で、決着を付けた方がいい…
「行くぞ…」
俺はスキル発動のイメージを集中させ、構えた。
奴の周囲を消し飛ばす勢いで放つ。森林の火事とかは今は考えない!!!
敵の少年のスキルは、俺のより少し早く発動した。
「君のスキルで何が出来るか知らないけど…まあ無様に死んでくれよ!!」「《死の花》!!」
「…!!《アトミックフレア》!!!」
一瞬、背筋が凍りつくような温度が場を支配した後、染み渡るほどの灼熱が拡散する。
…結果、対消滅。『なにも起こらなかった。』
「あ…?キミ、何をしたんだ。何で死んでない…?」
予想していなかった目の前の光景に茫然とする少年。
「よく分からないが、その『即死の力』…俺の炎(スキル)で打ち消せた…のか?」
「いや…いや!そんなハズは無い!キミが今放ったのは炎!どうみたって『ただの炎』だったろう!そんな炎が、どうやって、俺の『死の力』を消したというんだ!!」
自分の力が掻き消されたことが理解できなかったのか、それとも理解したくないのか、目の前の少年はひどく取り乱した様子でこちらを睨み付けながらそう叫んだ。
でも、そんなこと聞かれたって困る。
俺だってよく解らないままこの力を使ってて、それが超上級なんて呼ばれてるんだから。
数秒相手とのにらみ合いが続いた後、後方でファナスが一言「ふむ」と含み笑い混じりの声で言った。
「やっと分かったよ…アトくんのスキルが超上級な理由がね。今ので納得がいった。」
「えっ?」
「アトくん、君は自分の能力の由来が『何かのゲーム』から来ていると言ったね。」
「そうだけど…」
「『ゲーム』って言うのは恐らく、そっちの世界の遊戯だろう?炎を使う…いや、炎を模した遊びをするんだとしたら、君のアトミックフレアという炎は現実世界のどこにも実在しないってコトになる。つまり君の能力の本質は『その架空の炎を現実に無理やり成立させる』って所にあるのかも知れない。」
「架空の炎、か…」
「架空の炎なら、その対処法も架空のモノに限定される。遊びの中のルールは同じ遊びの中のルールでしか処理出来ない…つまり、アトくんが別世界から来たといっても…この場所が紛れもない『現実』である以上、『アトミックフレア』という炎は『架空のまま実在する、現実世界に対処法の存在しない』異次元のスキル…まさに無敵の力なんだよ!!」
「それに対して、彼の使う『死』は概念で実体はないものの、ただの現実で起こる現象だ。『現実に存在しない炎』は殺せずに、逆にその炎の性質に飲まれて概念ごと燃やし尽くされたということだ…!」
今まで呆然としていただけだった敵の少年は、さらに取り乱し、わめき始めた。
「バカな、バカなあり得ない!…!架空のモノ?ゲームの魔法!?…そ、そんなモノが、俺のこの最強の力に勝ったワケがない!!」
…多分、ファナスの言う通りだと思った。
確かに架空なら何でもアリだ。
それにゲーム好きな俺の父親が、親戚の反対を押し切ってまで付けた名前だ。そのゲームの中では、よっぽど強い魔法だったんだろう。
ここまで「死」という力に気圧されていただけだったけど、ここでなんとか勝ち筋が見えてきたみたいだ。
スキルが本名で決まる世界で、俺は異次元の炎スキルを手に入れました。 toropoteto @toropoteto
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