7話 即死

「ここです!」

シュートの後を追った先には、一台の幌馬車が停まっていた。

「よし、これで遠くまで逃げられるな…早く乗ろう!」

俺が馬車まで近付いて行こうとした瞬間、シュートが腕を伸ばし、制止させてきた。


「待って下さい! 今少し、荷台が揺れました…なにか居ます。」

「何だって…」

「奴らかも知れません…慎重に、確認しましょう。」

「ああ。ファナス、アニを頼む。」

ファナスは黙って頷くと、アニマを抱き抱え数歩後ろに下がった。


シュートと呼吸を合わせて、荷台の後方へゆっくり近付いていく。

「一気に捲って、確認しましょう。」

「よし、行くぞ…」

「それっ!!」


…中には、両手足を縛られた兵士が3人うずくまっていた。

「彼らは…王国兵!?」

「えっ…!?」

その瞬間、バサバサと草木を掻き分ける音が耳に入った。

「しまった…!!アト、背後です!!」

「なっ!?」


振り向くと、真っ黒な塊が刃をかざし、直前まで迫って来ていた。

「汝に…

「こいつ、死の…」

「危ない!!」

救いを…」


先に気付いていたシュートは、俺に覆い被さる様にして地面に倒れ込んだ。

「…」

その背中には、深く突き立てられた刃と…次々染み出ていく血液。

「うっ…くっ…」

「シュート…!?お前、血が…」

「…かま、構いませ、ん…それより、アニマ…様たちを…」

茂みの奥からまた音が…複数人いる。

いや、それよりも目の前の敵がまだ…!!

「不覚。『救い』損なったか。次は確実に。」


「…《アトミックフレア》!!」

俺は咄嗟に、敵を弾き飛ばす。

「おおおおぉ…!!消、えぬ炎!! 救いの光…! まさ…これが…」

黒いローブが灰となり崩れ落ちた。

この隙に、シュートを担いで立ち上がる。

「…アニ、ファナス!!ここを離れるぞ!逃げるんだ!」


俺はファナスを待たせていた位置まで戻った。

「まさか先回りされていたとはね…シュート隊長も負傷してしまったか…。アトくんは無事かい?」

「ああ。早く森を抜けよう」

とした矢先。


「あーいたいた。やっぱりこっちかぁ。」


突如、あらわれた少年の声に振り返る。

そこには見覚えのある、顔。

「…お前は!」

「まずいぞアトくん! 追い付かれた…! 例の転生者だ!!」


「…すまない、シュートを頼む。俺がやる。」

担いでいたシュートを丁寧に下ろし、ファナスの近くに安置する。

「アトくん。彼が使うのは恐らく超上級スキル…大丈夫かい?」

「…あいつは俺にしか倒せないんだろ。任せてくれ。」

「へぇ…」

目の前の少年はニヤッと笑った。


「よぉ、はじめまして同類。君を死なせにきたよ。」

「…俺は死なない。俺がお前を倒すからな。」

「ふーん。おっと…その前に。今いる『死の風』、全員集合して。」

少年は手を軽くたたく。

すると周囲の茂みに隠れていた黒いローブ集団が少年の周囲を取り囲むようにして表れた。

「えーと、ここにはざっと40人くらいいるのかな? ご苦労。」


…そんなに居たのか。

これだけいると流石に不利か? いや、王城でやったみたいに一気に吹き飛ばせばいける…!

「よし、それじゃあ早速全員…」

来る…!!

俺はスキル発動の準備をして、構えた。

しかし。


「全員、『救い』を与える。スキル発動「死の花」。」

少年の掛け声に合わせて、一人、二人と。

『有り難き幸せ!…有り難き幸せ!…有り難き…』

黒いローブの人数が減っていく。

「何を…してるんだ」


「これ? あー。なんかこの人たち、死ぬことが『救い』みたいな宗教にハマってるらしいんだよね。だから俺が『救世主サマ』になってあげて、たまに殺してやってるってワケ。」

「ま、俺も人ぶち殺すのが楽しーから、winwinだろ?」

「…理解出来ない。それに、俺の仲間に同じことをしてみろ、その時はお前を絶対に許さないからな!!」

「カッコつけちゃって。心配せずとも、君も仲間も全員一瞬で殺してやるよ。俺が女神サマから貰ったこの『即死の』力でなぁ…ハハハハ!!!!」


…今、何て言った?

こいつのスキルは…『即死』だって?

「ってことは…」

「なんだよ!俺に怖じ気付いたか?」

「まさか。」

怖じ気づいたわけじゃない。

これは…ただの同情だ。

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