6話 逃亡

「…我等は教団『死の風』。この王国にもあのお方の教えにより、死を運びに参った…」

「教団だと…?しかし何であろうと、この王国に危害を加えることは、このシュート・グインが許さん!!」

シュートは腰に携えた剣を素早く抜き、目の前の男に突進する。


「シュー、ト…貴公にも死を…」

ローブの男が軽く手をかざすと背後の集団から飛び出した3人の男が、それぞれ自らの袖から取り出した短刀を握りしめて、シュートへ飛びかかった。

「す、素早い…多勢とはいえ、やるな…!!」

シュートは3人の手の動きを読み、剣でなんとか受け流し、数歩後ろへ下がった。


「シュート!大丈夫か?」

「ええ、なんとか…しかし奴ら、中々の手練れのようです。私たちだけでは厳しい戦いになるでしょう…」

敵の動きを後方で観察していたファナスが口を開いた。

「…ねえ、アトくん。」

「何だ?」

「君のスキルで彼らを一網打尽には出来るのかな?」

「多分、出来ると思うけど…」


「なら僕が対話スキルで時間を稼ぐ。聞きたいこと聞き終わったら合図するから、隙をみて彼らを攻撃してくれ。」

「…わかった。」


そう言うと、ファナスは落ち着いた調子で

ローブの男たちの前まで近づいていった。

「やぁ、物騒なお客さんたち…君らは「死の風」とか言ったかな?」

「……いかにも。我らは教団「死の風」」

「君達のリーダー…教祖サマは誰かな?」

「我らの教祖は…異界の地より来訪された「死」の力を司る冥界の主…イチイ様だ。」

「イチイ様…ね。その主は今どこに?」


「先程…その城に単独で入られた…この城、この国に死を運ぶ為に…」

「なん…だって!?」

ローブの男の言葉を聞くなり、ファナスの顔色が変わった。

「行き違いか…!!このままではまずい!アトくん、質問は終わりだ!!早くこいつらをやってしまえ!!」

「了解…!!」


「む…我らの口をこじ開け、あのお方の情報を引き吊り出そうとは…無礼な、万死に値する。」

「総員、執行開始。包囲網「死の風」…」

一瞬にして、辺りが暗い影に覆われた。

数十人のローブの男たちが周囲の上空を覆い、短刀を持ち恐ろしい速さで斬りかかってくる。


あの不良たちを倒した時とは違う。明確な殺意の刃が幾つも降り注いでくるのだ。

これらを一撃で消さなければ、確実に死ぬ。失敗は許されない。…俺は大きく深呼吸した。



「…うおおおお!!!『アトミックフレア』ああ!!!!」


地面から立ち上がる虹色の光は、大きく揺らめきながらすべての影を飲み込み、その輝きで周囲を照らす。

「この力は…!?もしやあのお方にも匹敵する…!! グギャアアアアァ…!!!!」

敵は塵も残らず消え去った。


「やったぞ…!!」

「何て事だ…奴らを一撃で…!これが超上級…」

キラキラと輝いて消えていく炎を見上げながらシュートはそう呟いた。

「見とれるのは分かるが、今は城に戻るのが先だよシュート隊長!!」

「そ、そうですね!アト、急ぎましょう!!」

「あぁ!!」


王城の玄関に入ってすぐの大階段まで走っていくと、そこにはぐったりとしたアニを抱えて、よろめきながらこちらに向かってくるアレク兵士長がいた。

「アニ!!兵士長!!」

「お前たちか…我々は何とか生き延びたが…陛下は殺された…奴だ、例の転生者が既に侵入していたのだ…」

「陛下が…?なんという事だ…」

シュートは顔をしかめて目線を下げた。


「お前たち、アニムス様をお連れして早くどこかへ逃げるんだ…奴には、敵わない…」

「アニは俺が!」

「任せたぞ…アニマ様を…」

アレクからアニを受け取ると、階段の奥の方から軽快に小走りしてくる「何物か」が現れた。

「…おーーーーーーーーい。まてよ。逃げるなよー。あんたもお姫様も俺が殺すんだから。ん…?まだ生き残りがいたのか?」


「もう追い付いたか…!?お前たち、私が奴の足止めをする。早く逃げろ!!」

「そんな…あんたも一緒に!」

「アトくん、何か嫌な予感がする。兵士長には悪いけど、早く逃げよう…アニマ様の身の安全の確保が優先だ。」

「…わ、分かった。」


「アト、ファナス殿。王城を出てからは私の後について来てください! 少し離れた場所にある森に、兵士団演習用の馬車が停めてあるはずです!!」

「了解!!」

こうして俺達はアニの身を守るため、馬車のある場所まで走った。



「…あー。逃がしちゃったか。」

「残念だったな、転生者。貴様はせいぜい、ここで俺に足止めされて貰うぞ。」

アレクはゆらりと転生者に立ち直り、ニヤリと笑みを浮かべた。


「一瞬だよ。」

「どうかな…我が鉄壁の身体、今こそ解放するとき…!!!『スーパーガード』ォ!!!この硬度に勝るものなし!!…陛下の命を奪った罪、死で償うが良い!!」

兵士長、アレク・アームガードは王国最高の硬さを誇る拳を力の限り目の前の転生者に振りかざした。


しかし、その拳はあっけなく転生者の掌の上で停止した。

「それで時間稼ぐつもりだったんだ。死ぬのは一瞬だよ。スキル発動。『死の花』」

「ま、まさかこの攻撃を素手で…」

「受け止めた訳じゃないよ。殺したんだ、全てを。君も今すぐに死ぬよ。」

「なっ…カッ…ハ………」

ばたん、と重い音を立てて男は崩れ落ちた。

「ふう…弱かった。それにしても…あのお姫様を抱えていったアイツ、どうみても「日本人」だよな?

と言うことは俺と同じ転生者か…そうか、そうか…。ふふふ、はははは…」



続く

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