5話 迎撃
部屋の中にはアニの家で遇ったあの騎士が、手前のテーブルを挟んだ向こう側の椅子に座り込んでいた。
騎士は入室してきた俺達を一瞥すると、固そうな口を開いた。
「…それで、ファナス殿。その者は結局、例の転生者だったのか?」
「いいえ、この子は例の殺人転生者では無かったよ。僕のスキルで白状させたからね、間違いなく彼は潔白だ。大した説明もなしに暴力を受ける謂れはないよアレク兵士長。」
ファナスは、男の問いにうっすらと笑みを浮かべながら嫌味混じりで答えた。
「それは…アニマ様の御身に何かあってはいけないと判断し、咄嗟に…」
「最低限の騎士道(マナー)ってもんがあるだろう?言い訳してないでこの子に、謝罪の1つなりすべきだと思うけど騎士道的に。」
「…そうだな。名も知れぬ転生者殿。」
「あ、はい。」
目の前の兵士長は椅子から立ち上がり、姿勢を整え、俺の目をまっすぐ見据えた後に深々と頭を下げた。
「先刻の無礼、謝罪する。申し訳無かった。
…それと、アニマ様を窮地から救って戴いた旨を本人からお聞きしている。エリカダル王国兵士団を代表して、深く感謝申し上げる。」
「あ、あぁ。済んだことだ、別にいい。」
「そうか…」
兵士長はゆっくり頭をあげ、こう続けた。
「…実は、君に折り入って頼みがある。立ち話もなんだから、そこのソファーに座りなさい。」
「え?はい。」
そう言われて、俺は男の向かいのソファーに座った。
「…例の転生者についてだが、君はもう知っているかな?」
「はい、俺以外にもう一人…別の世界から来たって言う。」
「そこまで分かっているなら説明不要か。…その者を捕らえ、この王城に連行して来て欲しい。」
「…お、俺が?」
「そうだ、君だから頼むのだ。君が転生者であり、超上級の魔法を扱えることはアニマ様の発言やあの町の状況からして明らかだ。そうなんだろう?」
「えっと…そうみたいです。」
「我々は今、あの転生者を捕らえるために君のような力を欲している。」
「あの、その転生者って1人なんですよね?王国の兵士団だけでどうにかなりそうな気がするけど…」
「それが、そうもいかないんだ。」
「えっ」
ソファーの後ろに立っているファナスが口を開いた。
「その転生者も超上級スキルの使い手のようでね。彼1人捕らえようとして、もう何百人も犠牲になってる。」
「そんなに…」
「この王国も、いつ気まぐれで襲われるかもわからない。正直僕ら全員でも転生者からアニマ様を守りきれるかどうか…」
「なるほどな、わかったよ。でも俺も超上級スキルを使えるとはいえ、少し心許ないな…」
「流石に君1人に行かせることはしない。護衛はつけよう。シュート隊長、こちらへ。」
「はっ」
兵士長が部屋の奥に呼び掛けると、眼帯をした白髪の若い男が俺の前に立った。
「彼は、我々の中で最も剣の腕のたつ優秀な兵士だ。彼と彼が率いる1番隊を君の護衛としよう。」
「ご紹介に預かりました、私はエリカダル王国兵士団1番隊隊長、シュート・グインと申します。
…アトミックフレア殿、共に悪の転生者を討ちましょう。」
「よろしく頼む。あと長いから呼ぶときはアトで良いよ。」
「では今後はアト、とお呼びします。」
「ああ。」
「…そうだ、僕も護衛として着いていっていいかな。」
「ファナス殿…貴女も?」
「僕は前々から、転生者って存在に興味があったのさ。この世界に来る仕組みといい、スキルといい…謎だらけだ。アトくんと一緒に行くことでそこら辺何か分かるかもだ。例の転生者を捕まえれば現地で「尋問」も出来るしね。」
「…アトミックフレア殿。そういうことらしいが、構わないかな?」
「ファナスも着いてきてくれるのか、頼もしいな!」
「うん、よろしく頼むよアトくん。」
「…これで話は纏まったようだな。相手は超上級スキルの使い手だ、過酷な戦いになることを覚悟するように。勿論我々も別動隊として奴の捜索に当たる。何か新しい情報があれば伝令係を経由し、私に伝えて欲しい。」
アレクが話し終わると同時に、1人の兵士が息を切らして部屋に飛び込んできた。
「失礼いたします!!」
「なんだ騒がしい。」
「正体不明の集団が王城へ侵入しようとしております!!」
「なんだと…こんな時に!!見張りは何をしていた!!」
「それが…その集団の中に不思議な術を使うものがおりまして、見張りと周辺の兵士では歯がたたず…!」
「不思議な術、だと…?まさか例の転生者か!?」
「まだ判りませんが、その可能性が高いかと…!」
アレクは一呼吸置いてから、はっきりとした声で周囲に指令を下した。
「…急なことだが、先程の転生者討伐チームは王城前へ向かい賊を追い払って貰おう。その中に例の者がいれば即座に捕えて欲しい。」
アレクの方を向いてファナスが問いかける。
「兵士長、君は?」
「私は他の兵士と共にアニマ様と陛下の安全を確保してからそちらに合流する。」
「わかったよ。じゃあアトくん、シュート隊長、急ごうか。」
「ああ。」
「はい!」
俺達は部屋を出て王城前へと向かった。
入り口の正門前に出ると、ローブで顔を隠した謎の集団が、黒い影を落とす様に佇んでいた。
その光景を見るや否や、シュートが問い糺す。
「堂々と王城で狼藉を働くとは…貴様ら、何者だ!!」
すると集団の1人が前に出て顔を隠したまま、ゆっくりと答えた。
続く
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