4話 審問

「お…い……るかい?」


誰かの声が聞こえた。

軽く目蓋を開け顔をあげると、灰色の長い髪をした女性が目の前に座っていた。

「あ、起きた。」


遅れて、自分自身の周辺状況に意識が集中する。

狭いのか広いのか分からないほどうすぐらい部屋、両手足は座っている椅子に縛られている。

明かりは、壁にかけられたランプと、机に置かれた蝋燭1つのみだ。


「ここは…どこだ。」

まだはっきりとしない意識のまま、俺は呟いた。

「ここはね、エリカダル王国城の地下室。

牢獄…よりは上等な尋問室だよ。」

目の前の人物はにこやかにそう答えた。


「尋問室…?なんで…」

「君、転生者なんだろう? そりゃあ捕えて色々聞きたいことはあるとも。」

「転生…者。」

そのワードを耳にした途端、俺はさっきまでの出来事を一気に思い出した。

「そっそうだ…あの時変な奴らが現れて、アニがさらわれて行ったんだ!それで俺は…!」

「まあ一旦落ち着こうか。」

目の前の女性は、そう言うと取り乱す俺の目の前に手をかざした。

すると、たちまち身体の力が抜けて気分が落ち着いった。


「アニ…。一緒に居られたって言うアニマ様の事かな…?」

「彼女は自分をアニムス、って言ってたけど…」

「偽名を使ったんじゃないかな…王女様だし。」

「王女様!?…だったのか、あの子。」

「そうだよ、だから彼女については心配しなくて大丈夫、今は自室で休まれてるよ。」

そう言うと、目の前の女性はこほん、とひとつ咳払いをして話を続けた。

「名前といえば…自己紹介がまだだったね。

僕はファナス。ファナス・トーカーだ。この王国の相談役…宰相的な事をやってる。」

「俺は田中アトミックフレアだ。長いからアトでいい。」


自己紹介が終わると、ファナスはゆっくり話を始めた。

「スキルについても明かしておこうか、僕のスキルは「対話」だ。どんな相手とも心の底から話し合うことができる。」

「…分かりやすくいうと、僕に隠し事は通用しないってこと。」

ファナス、と名乗った女性は口元を少しにやつかせながら俺を見つめるが、目は全く笑っていなかった。


「アトくんに聞きたいことは色々あるけどね、まずは…君が、人々を殺し回ってるっていう例の転生者なのかい?」

「いや、違う。俺はさっきここに転生、っていうか…転移?してきたばっかりで、噂の立ちようが無い。」

「そうか…!まあ僕も君はそんなに悪い人じゃないと信じていたけどね!」

ファナスはわざとらしくウィンクをして見せた。

この人…あんまり信用ならないな…


「じゃあ次に…あの家でアニマ様とアトくんは何をしていたのかな?」

「えっと…」

俺は先程までの経緯をファナスに話した。

「なるほど…そこでうちの騎士団長に見つかったのか。あの人仕事熱心なのは良いけど、ちょっと加減ってものを知らないからねぇ…今も痛むだろう?」

「ああ…さっきから結構。」

「まぁ、その怪我に関しては後で回復して貰おうか。…じゃあ最後の質問だ、君はどんなスキルを持っているのかな?」


「俺は…まだよく分からないんだけど、自分の名前を叫ぶと炎が出るんだ。」

「なるほど…純粋な炎属性の魔法のようだね?」

「多分そう…かな?」

ファナスの問いに俺は曖昧に答えた。

なんせまだ一回しか発動してないのだから、自分自身の力でも良く理解出来てないのだ。

「よし、これで尋問は終わりだ。お疲れ様。」

「もう良いのか?」

「うん、危険性が無いことは十分に分かったからね。衛兵、彼の縄をほどいてあげて。」


ファナスが部屋の奥に向かって呼び掛けると、鎧をまとった兵士が近づいて、俺の手足の縄を手際よくほどいた。

「じゃあ行こうか。」

自由になった俺を見て、ファナスは立ち上がってそう言った。

「行くって…どこへ?」

「兵士長の所だよ、尋問が終わったら君を連れて来るように言われてるんだ。」

兵士達の列に着いていくと、城内のある客室に着き、俺はそこに通された。






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