3話 アニマ

少女に連れられ300メートルほど歩いて、到着した先は町外れにある古い屋敷だった。


「…君の家?」

「ここは私のお祖父様の家…元だけどね。今は誰も住んでいないの。さぁ入って!さっきのお礼するから!」

「あぁ…お邪魔します…?」

言われるがまま家に入ると、すぐ居間に通された。

「いやあの、ちょっとさ…」

急な事に困惑する俺の様子を気に止めず

「適当に椅子に座ってて、今お茶でもだすから!」

と言うと少女は奥の部屋に消えていった。

お茶?台所に向かったのか?


「おかまいなくー…」と妙に緊張した声で言ったが聞こえてないだろうな。

仕方無いので目の前にあったテーブルについて数分待った。

数分待つと、さっきの少女がお菓子?の乗った皿とティーポッド、その他食器を運んできた。


「これ私が作ったお菓子だから、良かったらハーブティーと一緒にどうぞ!」

少女は目をキラキラと輝かせて満面の笑みで俺にお茶を薦めてくる。

とにかく俺は苦笑いするしかなかった。


「いや、これは美味しそうだけどさ…なんか色々急じゃない?」

「え…あぁごめんなさい!私友達をお家に呼ぶなんて初めてで、つい舞い上がっちゃった…」

「そ、そうなんだ…ん、友達って俺のこと?」

「え?違うの?」

「そんなすぐに人を友達だと思う子なのかよ、君は。」

「友達居たこと無いからわからない…」


あ、この子だいぶ変わってるな…と思った。

町で襲われてた時は普通の子に見えたんだけどな。

でも…俺もマトモに友達なんか居なかったから、気持ちはなんとなくわかるよ。


「ま、まぁいいか。じゃあまず…俺の名前は田中アト…!」

そこまで言いかけて、さっきの惨状を思い出す。

咄嗟に俺は手で口をふさいだ。

この室内でさっきみたいな炎が舞い上がったら流石に危険すぎる。

すると、思案する俺の表情を見て、少女は淡々とした態度で俺に問いかけてきた。


「…名前、スキルを気にしてるの?」

「えっ、スキルって…さっきの…?」

「そう。」

「俺…自分の名前を言うとなんか炎が…」

「それなら大丈夫よ、明確な目的意識がないと、スキルって簡単に発動しないはずだから…」

「そうなんだ…?良かった…」

俺はほっと胸を撫で下ろした。

安心する俺を少女は不思議そうに眺める。


「スキルのこと、知らないのね?」

「うん…俺さぁ、信じてもらえるか分かんないけど…実は別の世界から、さっき飛ばされて来たんだよ。」

それを聞くや否や少女は大きく目を見開いた。

「えっ…!?じゃあ、あなた…転生者なの!?」

「えっ転生…ってここじゃ普通のことなのか?」

「いえ普通の事じゃないわ…ここじゃないどこかに別の世界があって、そこから人が来るなんて。」

「じゃあなんで…」


「実はね、結構前から話題になってるの。異世界から来た人間が自分のスキルを使ってむやみに人を殺して回ってるって…」

「待ってくれ、それは俺じゃないぞ!本当にさっき来たんだ!」

「大丈夫。困ってる私を助けてくれた良い人だもの、信じるわ。」

動揺する俺の手をとって少女はそう言ってくれた。


「あ、ありがとう…」

「それでその…良かったら私と友達になってくれたら嬉しいんだけど…」

少女は目線を反らして恥ずかしそうに言った。

急に手を握られたので俺も恥ずかしかった。


「…あぁ!俺は田中アトミックフレア!よろしく!」

「私…アニムス。アニって呼んで!」

「よろしくな!アニ! 俺は、そうだな…アトミックフレアだから…アト?」

「じゃあアトって呼ぶ! よろしくね、アト!」

…俺たちが強く握手をしようとしたその瞬間。

突如、玄関を強く叩く音が室内に響いてきた。


「えっ…この音、誰か来たのか?」

「何…?いつもはこの家に誰も来ないわよ…?」

俺達は恐る恐る玄関に向かい、扉を開けた。

するとそこには数人の兵士を連れた鎧を着た男が立っていた。


「…夜分遅くに失礼。私はエリカダル王国騎士団兵士長、アレク・アームガードと申します。こちらはアニムスさんのお宅で間違い無いでしょうか…」

男の問いにアニムスはうつむいたままで男に小さな声で答えた。

「は、はい…」

「先程の街の火災についてなにか…!?あなたは…!?」

「…」


突如、男の顔が強ばった。

「王国へ伝えろ、アニマ様を発見した。」

「はっ!!」

後ろの馬に騎乗した兵士たちの何人かは急いでどこかへ向かっていった。


「アニマ様、随分探しましたよ。さぁこちらへ。」

「きゃっ!」

男はアニムスの手を引き、何処かへ連れ去ろうとしている。

「お、おい!アニをどこへ…」

「む…!!」

扉の前に飛び出した俺の顔を男は睨み付けた。


「貴様…魔力反応で分かるぞ、転生者だな…?」

「な…いや、俺は!!」

「問答無用だ。」

瞬間、俺の脇腹に衝撃が走った。

あまりの急な痛さと苦しみに意識が保てず、そのまま俺は気絶してしまった。

薄れ行く意識の中聞こえたのは、アニの叫び声だけだった。



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