転生者討伐ルート
2話 最強の炎属性
俺は地べたに座り込み、壁を背にもたれかかった状態で目が覚めた。
見回すと辺りは暗く、目の前の道も何だかせまい。
どうやらここは…何処かの路地裏のようだ。
壁と壁の隙間から灯りが見えるので、俺は外に出てみることにした。
そこには小さな町があり、点在するランプが夜のレンガ造りの住居をぼんやり照らしていた。
「本当に異世界に来たのか…俺、いやいや日本じゃないにしても、どこか外国の町かも知れないし。そもそもさっきのは夢じゃないのか?」
言葉とは裏腹に先程自分の身に起こった不思議な現象に俺は心を踊らせていた。
「それにしても…あの女神様が言ってた事が本当なら、ここは自分の名前で嫌な思いをすることが無い世界…なんだよな?でもそれってどうやって確かめんの?」
うすぐらい町でぶつぶつ独り言をしていると、遠くから誰かの話し声が聞こえた。
「声…人か?人がいるなら、この場所の事を聞けば何か分かるかも知れないな!」
俺は声のする方向へ歩いていった。
しかし、近づいてみるとすぐに、その声がただの話し声では無いことに気付いた。
「怒鳴り声…しかも複数人いる、喧嘩か?すぐそこの曲がり角にいるみたいだが…」
俺はそっと壁越しに向こうの景色を覗き見た。
するとそこには三人組の男がいて、小柄な少女を囲んで怒鳴り付けていた。
「おい、女だからってあんまり調子乗ってんなよ?俺らに喧嘩売ったこと、早く謝っとけって!!」
「これ以上ナメた態度取ると、女の子でも俺ら手加減せずヤっちゃうよ?少し痛い目見てみよっか!?」
…このままだと、あの女の子はあいつらに何をされるかわからないぞ。
でも相手は大人の男三人だ、今俺が出ていった所で到底…
俺が行き渋っていると、男達のうち1人が急に振り向き、こっちを見た。
「ん?…待てお前ら、今誰か…いや、気のせいか。」
俺は咄嗟に壁の内側に身を隠し、呼吸を止めた。
何とか、やり過ごせたようだ。
「や、やばい…バレたら俺も危ない…!このままこうしてるしかない…!」
しばらくすると、また少女を責める男達の声がし始めた。
「おい、お前名前は?え、言ってみろよ?」
少女は襟元をつかまれ脅されるが、強く相手を睨み付けるだけで、ただ黙っている。
「…さっきから何も喋んねぇぜ、こいつ。」
「まあ、弱っちぃ名前で、ショボいスキルだから、恥ずかしくて言えないんだろうな!!」
「ははは違いねぇ!!聞かせてみろよ!その雑魚い名前を!!」
…奴らの発言でふと、過去の記憶がフラッシュバックした。
(おい、こいつの名前、アトミックフレアとか中2病かよ!!ダサすぎんだろ!!)
(あとみっくふれあ、とかどんな頭してたらそんな名前子供につけんだよ。それもこんな地味な奴によ。)
…向こうの彼女がどう思っているかは知らないが、名前をダシに馬鹿にされるのは俺にとってとんでもなく腹が立つ事なんだ。
例え、他人事でもだ!!!!!!!!!
気がつくと、俺は壁から飛び出して男達の前に立ちはだかっていた。
「その子を離してやれよ!男が寄ってたかって苛めるなんて卑怯だぞ!!」
「あ、何お前?下がってろよ。ボコされたいの?」
「いいからその子を離せ!!」
「ウザすぎだろ、お前。そこ動くなよ?」
すると、一人の男の手から長いロープが出現し、俺の身体を縛り上げた。
「何だ!?ううっ!!」
「まず一発な。」
俺は顔面に力強いパンチを受けた。
「ガハッ…」
「お前さ、あんま俺らの前で調子こくなよ?」
「…そうだ、こいつの名前も聞いてみようぜ。見るからに弱そうだもんな。面白いスキルだったら見世物小屋に売り飛ばせるかも知れねぇ。」
結局俺は、何も出来ず奴らに良いようにされてしまった。ただの一時の感情に流された俺が馬鹿だったんだ。
「おい、お前名前は?…早く、言えよ!!」
今度は腹に重い蹴りを食らう。
手足が動かせないのでガードも出来ない、絶望的だ。
「ウゥッ…!!俺の、はぁ…」
ただ1つ、希望があるとすれば。
「俺の名、前は…」
希望があるとすれば、最初にあの女神様が言っていた「俺の名前が俺自身の力となるような世界」という言葉だけだ。
ここが本当にそんな世界なら、頼む、俺に力をくれ。
「田、中ア……」
「あん?タナ…なんて?聞こえねーよ、もっとでかい声で言えや。」
そうだ言え!俺の名前を!
「田中!!!《アトミックフレア》だ!!!!」
そう叫んだ瞬間、耳をつんざくような爆発音と共に周囲に虹色の光が揺らめき、三本の焔の柱が男達をそれぞれ足下から空中まで貫いた。
「ぐえあぁ…」
対した叫び声もあげられず、男達は黒い塊となり、崩れ落ちた。
「や、やべぇ…何これ…」
身体に纏わりつくような、みずみずしい熱気が辺りに充満していた。
…男達は死んでしまった。明らかにやりすぎだ。日本なら過剰防衛でお縄になる。
嫌な汗が吹き出してきた。逃げようとした時、あることに気が付いた。
男達に襲われていた少女が頭を抱えて踞っている。外見に異常はない。
俺は、少女に近寄って話しかけてみた。
「ま、巻き込まれなかったのか?今のに…」
「…あなたが助けてくれたの?」
「そう、かな…」
「ありがとう…!!でも、そろそろ人が来そうよ?」
「そ、そうか…早く逃げよう!」
「うん!私についてきて、町をすぐ抜けれる道を知ってるから。」
そう言う少女の後を追って、俺は夜の町を離れた。
その後、町ではすぐに騒ぎになり多くの野次馬が集まった。
暫くすると、火災現場に1人の男が現れた。
豪華な鎧を身に纏った、端正な顔立ちの騎士はこう呟く。
「超上級魔法発動の兆しがあったから駆け付けてみれば…この反応からして、炎属性か…」
「でもおかしいな…ヴァルフレイム隊長は遠征で、エリカダルには今居られないし。他に炎属性の超上級魔法使いなんて…うーむ、こうなってくると…」
「転生者、ぐらいしかあり得ないなぁ…」
男はニヤリ、と笑ってその場を後にした。
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