エピローグ(ePilogue)

 黄金週間が明け、令和二年度の新学期が開始された。

 四月の間、丹念な準備をしたにもかかわらず、いざ実際に配信講義をやってみると、問題が幾つも生じた。


 アプリを起動させれば、それで講義が始められるわけではなく、講義の下準備には半時間ほどかかる。これを手抜きした時に限って、ヒューマン・エラーが起こるのは〈配信あるある〉なのだ。

 それに、たとえ〈生主〉が入念な準備をしても、突然アプリが強制終了になるようなソフト側のトラブルが生じた事もあった。


 〈対面〉ではあり得ない事態が起こり得る配信講義は、感染症が落ち着くまでの暫定的な手段のはずだったのだが、結局、令和三年度の今なお多くの大学でオンライン講義は継続されており、隠井が行った配信数は五百以上にも及んでいる。


 いつも順風満帆とはゆかなかったが、それでも、これだけの本数をこなせたのは、最初の試行錯誤の賜物であろう。


 しかも——

 とある大学においては、オンラインらしい講義という理由で、学生が選ぶ「ベスト・ティーチャー賞」にノミネートされさえした。


 こいつらのお陰だよな、と愛用のタブレットと三代目の神器〈タッチペン〉に語り掛けながら、笑みを浮かべる隠井であった。


〈了〉

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P3 隠井 迅 @kraijean

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