暫定死刑囚の炙り出しに成功
「みんなの期待に沿えるかどうかは分からないが……」
どうやら、彼らの期待に答えいないわけにもいかなくなたようだ。
『私』は、犯罪者の顔に見られるいくつかの特徴をあげつらった。
犯罪者の顔の特徴には、概ね口が小さく、上唇が曲がり、両目の間隔が狭い顔が多いとされる等、それ以外にもいくつかの例を上げて猟奇凶悪犯の人物像を形作って行った。
「あと、これは個人的な意見なんだが、雰囲気としては歌舞伎役者のような端整な顔立ちで、虫も殺せないような儚い印象を受けることが多かったかも……」
『私』の話に聞き入るように、囚人たちは蛇に睨まれたカエルのようにおとなく身動き一つしない。
「彼らは決まって自分は悪くないと主張し、自分が人殺しをしたんじゃない、などと重大事件を起こしたことへの反省の弁は聞かれない。本人にはその認識のかけらもないことが多いんだ」
「死刑判決を受けた大量殺人の受刑者に接見した機会もあって、『今でも人を殺したくなる衝動が消えない』と、いう話を聞いたときには、こんな学問を生業としていながらもさすがにゾッとしたことを昨日のように覚えている」
受刑者たちはみな一様に黙ったまま身動きひとつしなくなった。
そんな重苦しい空気に耐えられなくなったのか、『ピアス』が口を開く。
「とても信じられねーが、センセーが言うんだからまちがいないんだろう……。 な、そうだよな? おい、てめーらなんか言えよ!」
『ピアス』の問いかけに答える受刑者はいなかった。
「なんだよ、揃いも揃ってだんまりかよ。そんなやつがこの中にいるってのによ!」
「刑務官の話が本当なら……、多分真実なんだろうけどよ。そんなサイコ野郎と同じ部屋にいるってだけで、何度も修羅場を経験してきた俺でさえビビっているってのが情けねえぜ」
これまで、虚勢を張っていたのか、ヤクザのプライドなど何処かへ消し飛んだように膝を抱えてガタガタ震えている。
「な……なあ、センセーよう。あんた、さっきは冗談半分で言ったんだが、あんたらな、そのサイコ野郎の見当がついているじゃないのか」
「みんなの期待に沿えるかどうかは分からない。実は……まだ確証は持てていないのだが、一人気になる人物がいて……。恥ずかしながら、先程から手足の震えが止まらないんだ。どうしてだかは分かるな?」
すると誰かが『うなぎ』を指差して、「あいつ、まさにピッタリじゃないか?」と言い出した。
突然の暫定死刑囚に認定され、動揺を隠せない『うなぎ』が反論する。
「お、俺はあと半年の刑期しか残っいないんだ。刑務所を出れば、妻と娘が出迎えにきてくれることになっているってのに!」
すると、それまで無言だった『ピエロ』が叫んだ。
「思い出した。どこかで見た顔だと思っていたら、家族を金属バットで惨殺した殺人鬼だ。しかも、かみさんの首を切り落としたんだとか。こいつ、とんでもねえ悪党だ。人間として許せねえ。こんなやつなら死刑でも軽いくらいだぜ!」
「犯罪をいくつもい繰り返してきた俺が言うのもなんだが、残酷で非道であり、さっき聞いた話が事実なら血も涙もない鬼畜だ。けっ、虫酸が走るぜ!」
『ピアス』の放ったその一言が、他の受刑者たちの義侠心を奮い起こさせたようだ。
「こいつ絶対許すまじ!」
「万死に値するわ!」
「百回殺しても被害者の家族が納得するとは思えね―!」
「俺に銃を貸せ!!」
「いや、俺がこの手でこいつに鉄槌を下してやらなきゃ気が済まない!」
「俺にやらさろ!」
最終的に『うなぎ』以外、七人の受刑者の意見が一致する。
我先にと拳銃に群がる受刑者たち。
命乞いをする暫定死刑囚の『うなぎ』
すると……。
「パン! パン!」と、二回続けて乾いた音が。そして、とどめの一発とばかりに三発目の銃声が狭い部屋に響き渡った。
受刑者らによって羽交い締めにされ、『ピアス』に頭を銃で撃ち抜かれて息絶えた『うなぎ』に向かって、彼らは歓喜の雄叫びを上げる。
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