『私』の独白 そして『私刑ゲーム』の結末は?
「これでまた一人片付いたみたいだな」
『私』は小さな声で独りごちた。
『ピアス』によっ無残にも射殺された人物――『うなぎ』――は、残忍な犯行に及んだ猟奇殺人犯ではなかった。
実のところ、死刑執行される受刑者は八人の中の誰でも良かったのだ。
ただ、死刑が執行された事実と記録さえ残せれば『彼ら』の目的は達成される。
要は、自らが刑の執行役になることを恐れた『彼ら』は死刑執行という職務を放棄。それが常態化していたという茶番がことの真相だ。
「日和る組織のトップのおかげで、また命拾いをしたようだ」
事件当時は、太っていたが、刑務所暮らしで三十キロも体重は激減。大いに世間を賑わせた当時の事件の頃とは容貌が激変したことも幸いして、蒸し返されることはなかった。
教え子をレイプした話は事実。しかし、そのうち二人を殺害したことをきっかけにして、『私』の犯行の残忍性は徐々にエスカレートしていく。
過去に前例のない猟奇的な犯行で、世間を大いに賑わせたものだが、熱しやすく冷めやすい民衆の興味はすぐに薄れ、彼らは次の話題に関心が移っていった。
当然裁判では、精神鑑定の結果を加味されて無期懲役が確定。主に凶悪犯が収容されるこの刑務所に収監され、釈放の見込みは当分なさそうだと腹をくくっていた。
そんな鬱々とした日々を送るだけの『私』に訪れた幸運。
突如始まった当局のイカれた『死刑ゲーム』とやらのおかげで、『私』の刑期は徐々に減っていくことになる。
身代わりになって死んでくれた『うなぎ』の傍らで、『私』が独白する。
「あんたには悪いことをしたな。死刑を執行することに躊躇い、自らが刑の執行役になることを恐れ、日和る組織のトップのおかげでまた『私』は命拾いをしたようだ」
「あと数年で仮釈放だ。なんともありがたいことではないか。この国のヘタレどもに感謝だ」
サイコパスはコミュニケーション能力が高く、相手を巧みに誘導したり自分を魅力的に見せたりする操作に長けていることも付け加えておくべきだったかな。
そのせいもあって、多くの異性と密接な関係に発展。時に暴力的ではあるが意外に女性にモテるんだと言うことを。
この施設のお偉いさんたちも、ようやく私の存在価値に気づき始めたようだ。
そうりゃそうだ、無駄な血を流すこともなく、確実に一人だけの死刑(私刑)が確約されてるんだからな。
国が、この囚人同士による『死刑ゲーム』を取り入れた当初は、パニックに陥った受刑者らが、互いに疑心暗鬼になって殺し合いを始め、凄惨な死刑執行イベントになったこともあるそうじゃないか。
その後の処理のことを想像しただけで、彼らの労力も精神的なダメージも想像に難くない。
無駄な死人を出すことなく、一人きりの死刑執行が執り行われ、その上ゲーム後の始末にも時間も要しないんだから、こんなありがたい死刑執行人は『私』の他にいるとも思えない。
おかけで無期懲役を喰らって、ムショに放り込まれてまだ三年足らずだというのに、あと数年で仮釈放だなんてな。
こんなにも恵まれた刑務所暮らしが待っているだなんて、入所当初は考えもしなかった。
「さて、出所後初の獲物はどんなタイプの娘がいいかな? それを考えると今から心躍るようでワクワクしくるよ」
ただ、スピーカーから流れた声の主が話していたことが気になる。極めて特異で悍ましい猟奇殺人犯は『私』ではない。
ということは、必然的に『私』と、おそらく私刑された『うなぎ』以外の他、六人の中にその破滅的サイコパス野郎がいることになるが……、当然その道のプロである『私』にはその目星が付いている。
しかし、それは秘密にしておくことにしよう。
秘密は、秘密のままにしておくのが『あなた』の望みだと思うからね。
〈了〉
私刑執行 8人じゃ多すぎる ねぎま @komukomu39
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