『私』の研究素材はサイコパス
『私』の、大学での主な研究テーマは、警察と連携して犯罪や非行を行ってしまった者たちの特徴や特性を細かく分析し、そのデータから今後再犯に至らないような心理的なアプローチをまとめ上げること……といってもわかりづらいかな。
「プロファイリングという言葉を一度は聞いたことがある者も多いと思う。犯罪心理学は犯罪・非行の原因を解明するための学問として進化を遂げって今日に至る。実際の犯罪捜査に直結した研究も行われている、最先端の分野だ」
「なんか難しい話になてきたなあ。おれは中卒だからよ、そういった小めんどくさい話はめっぽう苦手なんだ」
『ピアス』はがらにもなく照れながら頭をかきむしる。
『犯罪者プロファイリング』は、過去の犯罪データベースから、新たに起こった事件の犯人像を予測する方法。
近年では、犯罪心理学や統計学に基づく科学的なデータの重要性が認められてきている。
「警察に呼び出され、犯罪捜査に協力することも度々あってね。全ての犯罪をデータベース化してあるんだよ」
「へえ――、面白そうな話だな。少し聞かせてくれよ、センセー?」
ノリノリだな『ピアス』……。
「薬物中毒や特殊な精神障害を別にすれば、ざっとこんな特徴が挙げられるんじゃないかな」
次第に『私』の話に興味を持ち始めた受刑者たちは、『私』に注目し始めたようだ。
「普段は物静かで、到底問題を起こすようには見えない、大人しそうな人物が実は凶悪犯人だった……といったマスコミの報道に接することも多いと思う。また、日頃目立たず、おとなしかった少年が罪を犯すことは犯罪心理学の世界では珍しいことではないんですよ」
殺人や強姦、強盗などの重大犯罪に関わる人物に共通する年齢、職業、住まいのほか、犯人に特有な行動パターンや、その特徴や思考。犯人の人相などのデータが蓄積されるにつれ、『私』の専門分野の犯罪捜査における需要度も徐々に増してきていた。
「凶悪犯罪に手を染める加害者の多くは、実は自身が過去には犯罪被害者だった者が多いとのデータもあるんだ。必ずしも筋骨隆々の大男が凶悪犯罪を犯すわけではないのです」
すると、最初に疑われた『ピエロ』が、わざとらしく咳払いを一度する。
『私』の話を聞く他の七人の受刑者らは、目を輝かせて真剣に『私』の話に耳を傾けている。
そこで『私』は、殺人などの重大犯罪を犯すタイプの人間の特徴をいくつかあげつらってみた。
「普段は表情を変えずに淡々と仕事をしたり、会話を楽しんだりしている。薄ら笑いを浮かべる。自傷を繰り返していた過去がある者も少なくない」
『私』は更に続ける。
「素直な性格で真面目、大人しく温厚な人柄。物静かで無口、臆病、気が小さく、落ち込みやすい。優柔不断、他人の目を気にしすぎる、ストレスに弱いとか。ざっとこんな程度だろうか」
これは凶悪犯にかぎたことではないので、ここにいる全員に共通する特徴ともいえるが。
「人は見た目じゃないってことかな? なら、あんたその道のプロって訳だ」
受刑者たちは『ピアス』の言葉に賛同する。
「それはどうか分からないが、凶悪犯罪を犯しやすいサイコパスタイプの人間の特徴をいくつか上げることならできると思う」
『私』は、凶悪犯に共通する特徴をいくつか例を上げてみた。
「例えばこんな感じかな。人付き合いも節度ある態度で接する。一つのことに熱中するとしつこいくらいに、とことん追い求める……」
「ああ、それはさっき聞いたよ。そういうんじゃなくて……。ほら、あんたは実際に凶悪犯と接見したことがあるだろ?」
「そうだね。かれこれ百人ほどには会ってるはずだ」
「そう。それだったら、彼らに――中には女もいたかもしれんが――そいつらの外見的な特徴なり、癖なり、もっと具体的でわかりやすい、何ていうか……凶悪犯を特徴づけるものを経験上知ってるんじゃないかと思ってな」
「ああ、外見上の特徴も統計的なデータの蓄積が進むにつれて徐々に分かってきている」
「だったら、センセー、あんたならピンポイントでそのサイコ野郎を言い当てることだって可能なんじゃないか?」
全員の視線が、私に集中する。その視線はみな神にすがる怯えた信者のようにも見えた。
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