スピーカーから流れる声
そうこうするうち、不意に、天井から吊り下げられたスピーカーから無機質で冷淡な男の声が流れてきた。
「これから君等に任務を与える。仕事は至って簡単。この中に一人だけいる、聞くもおぞましい猟奇的な大量殺人を犯して服役中の死刑囚を見つけ出すこと。そして、そいつを用意された拳銃で撃ち殺すことの二点のみだ」
あまりに唐突で、耳を疑うような話に、囚人一同押し黙ったまま聞き耳を立てているのが伝わってくる。
「君等には、長く退屈なムショ暮らしに飽き飽きしていることと思う。中には鬱憤が溜まっている者もいることだろう。たまには多少の息抜きも必要だと思って、細やかなレクリエーションを用意させてもらった。名付けるなら……そうだな『死刑ゲーム』……だろうか。こちらとしては、気軽に楽しんでもらえれば幸いだ」
囚人たちは各々、スピーカーから流れる音声に聞き耳を立てながらも、部屋に集められた囚人たちを見渡し、やや当惑気味に観察し始めている。
「猟奇的犯罪を犯して、死刑執行を待つだけの死刑囚を見つけ出せたと判断された段階で、円柱上部から拳銃が現れる。拳銃には弾が六発装填されていて、誰がその銃を使うかは君らの裁量に委ねられている。遠からず死刑執行が執り行われる受刑者の死が少しだけ早まるだけだ。なにも躊躇う理由は無いだろう」
スピーカーの男は続ける。
「なお、ことを成し遂げた際には、君等にはそれ相応の報酬が用意されてる。各自五年分の刑期の猶予。更に出所時に現金千万円と、同額の電子マネーが付与される。餞別代わりと言ってはなんだが、長期刑を喰らって収監されてる受刑者が一財産抱えてシャバに出られるんだ。こんなに濡れ手に粟のおいしい話はないだろう?」
受刑者らの反応を伺うとそれぞれ、気味悪く薄ら笑いを浮かべる者。お経のようなものを唱える者。鼻くそをほじって我関せずを装う者。顔面蒼白で膝を抱え、ブルブル震える者など、一様でない。
「ちなみにその死刑囚の犯した罪の一部を聞かせよう。ただし、吐き気をもよおしたくなければば耳を塞いでおくことだ」
悪質かつ残虐性に富んだ、稀に見る犯行の一例がスピーカーから淡々と語られる。
「誘拐した少女の頭髪をバリカンで丸刈りにし、手足を拘束具を使って身動きのできない状態で何度も強姦したあげく絞殺。なおもその息絶えた少女を三日に渡って屍姦したのが第一の犯行」
「また、こんな事例もある」
「二週間にわたり女子○生を監禁し、ペット用の首輪を付け、「ご主人様」と呼ぶよう強要。陰部にマッチの軸木を挿入して火をつける。女の陰部に鉄筋を挿入する、肛門にガラス瓶を挿入する」
更にスピーカーの声の主は残忍かつ非情で悪魔的な犯行を嬉々として語り続けた。
「そいつは徐々に殺人の快楽に溺れ、しばらくしてその快感が薄れてくると次の獲物を物色するかのように、新たな犠牲者を探し始めてことを繰り返していった」
「乳飲み子とその母親のいるアパートに侵入。強姦しようとしたが抵抗されたため、首を絞めて殺害し、その後はお決まりの屍姦。さらに泣きやまない生後十一ヵ月の女児を床にたたきつけた上、首をひもで絞めて殺害」
「鉄パイプやフォークなどを使って殴る蹴るなどして、最後にはシンナーをかけて火を付けた。『これはゲームなんだから、俺は何も悪くない』と、嘯いたとかいう、被害にあった母子の身内による目撃証言もある」
「のこぎりを挽く音を不審に思った、アパートの住人からの報告が警察に報告されたものの、警察の怠慢で何日放置しておいたらしい事例もある。不快なのこぎりを引く音が再開されると、今度は警察の動きも機敏だった。検分の結果報告を受けたのは私なんだが、半年間もバラバラ死体とひとつ部屋で同居していたらしく、異臭が漂っていたそうだ。別の階の住人も気づくくらいの臭いだったから、その異臭の強烈さは想像できるだろう」
ここに集められた人間はみな、重罪を犯した受刑者のはずだ。しかし皆一様に、おねしょをしたことを母親に叱責されて、シュンとなっている子供のようにおとなしく話を聞いている。
「また、半年間も死体を抱きながら、死臭漂うアパートにひとり籠もり布団で……」
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