第5話 人造人間に感情はない

【人造人間に感情はない】(ブランコ、カスタネット、人造人間)


 ブランコで立ちこぎしながら、カスタネットをたんたたん。

 肘のところで鎖を挟んで器用に体を支えながら、ぎぃこぎぃこと同じ振幅で振り子して、カスタネットをたんうんたたたん。

 そんな不可解な彼女は、私のおうちのすぐとなり、窓から見える公園に突然現れた。

 理由はわからないけど、初めて見た日以降は毎日毎日、彼女はそこにいる。


 今日も今日とてたんたたん。

 明日もきっとたたんたたん。


 最初はただただ不思議だと思っていただけだったけど、次第に彼女の正体が気になるようになっていた。

 だってあんなのって、すごい怪しい。怪しすぎて誰も近寄っていないみたいだったけど、でも、だからこそとっても気になってしまう。

 あの子は一体、どうしてあんなことをしているんだろう。

 そんなことが気になりすぎて、ついにおうちを出て話しかけてみた。

 もしかしたら無視されるかもと思ったけど、彼女は案外あっさりと振り向く。ぼんやりとどこかに向けられていただけの瞳が私の形に瞬いて、それが宝石みたいにキレイな青色をしていることに私は気がついた。

 瞳だけじゃない。まるで作り物みたいに、彼女はどこもかしこもキレイすぎる。

 瞬きで星を散らす機能なんて、人間にあっただろうか。

「初めて話しかけてくれました」

 声をかけた私に彼女はにっこりと笑って、ぴょんっとブランコを飛び降りる。

 そのままぎゅっと抱き着かれて、がしゃがしゃと鳴る鎖の音が聞こえなくなる。

 鼓動が口から飛び出してしまうと思った。

 あたふたする私に、彼女は「よかった」とそう言った。


 ここには人造人間ばかりだから、人間に会えて嬉しいと。

 

 話を聞いてみると、彼女はどうやら何かの映画に影響されて、人造人間が世界を支配していると思い込んでいるらしい。人造人間は感情が希薄だから、ブランコに乗ってカスタネットをたんたんするというおかしな行動にも好奇心を抱かないのだという。

 普通は好奇心よりも恐怖心が勝つからだよ、とは、だけど私は言わなかった。

 それはもう真剣に人造人間の恐ろしさを教えてくれる純真な彼女と、もう少しだけ世界にふたりきりの『人間』でいたいとそう思ったから。


 人造人間にだって感情や好奇心はあるんだって、そう知ったらびっくりしちゃうかな。

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