第3話 カフェインレス

【カフェインレス】(コーヒー、魑魅魍魎、天変地異)


 ちょっと前、人間は魑魅魍魎を見る装置を作った。顕微鏡ではない。

 そのとたん魑魅魍魎どもはかくれんぼをやめて、今度は愉快に鬼ごっこを始めたらしい。なんか怖い奴らに追われて殺される事件ならまだマシで、魑魅魍魎っていうのは人間の思っていたよりも大変な存在だった。

 一足で日本が半壊するでかいのとか、大陸を引きずって移動させたがるやつとか、羽ばたきで竜巻を呼ぶやつとか、雷雲と一緒に飛ぶやつとか、冬と一緒に歩いているやつとか。

 そういったヤバイ連中が跳梁跋扈しているおかげで、世界はエブリデイ天変地異だ。


 だけど転機は突然現れた。発端は私。

 ある日のデート中、竜巻で拡散するつららの中でコーヒーをたしなんでいた時のことだった。風にまかれて飛んで行ったカップが雪女さんに直撃して、そのとたん彼女は爆散してしまったのだ。

 それを見ていた誰かが缶コーヒーを大量に竜巻に投げ込むと、ぶちまけられたコーヒーがこんどは竜巻の中心で昼寝していた竜さんをぶち殺した。

 どうやら魑魅魍魎にはコーヒーが効くらしい。魑魅魍魎もびっくりの事実だった。

 その情報は口コミで広がって、いたるところで魑魅魍魎にコーヒーがぶちまけられるようになった。その中で分かったのは、コーヒーに限らずカフェインが有効らしいということ。エナドリは爆弾、玉露はミサイル兵器といったところか。濃縮されたカフェインの力は天変地異さえものともしないらしい。意味わからん。

 なんにせよ気が付けば鬼は交代して、人間は追う側へと変わっていったのだ。


 ただこの奇跡の逆転劇のせいでひとつ、とても困ったことがある。

 何せ私は無類のコーヒー好きなのだ。カフェイン中毒といっても過言ではない。

 以前までなら魑魅魍魎も天変地異も、気にせず一服していたのに。


「「行っちゃうの?」」

「いや、だって、コーヒー飲みたいし」

「「いっちゃうの・・・?」」

「うぐぅ・・・行かない、行かないからなかないで?」

 恋人たちの母親を不運な事故で殺してしまった私は、あれ以来カフェにさえ満足にいけやしない。飲み物は雪解け水かつらら、たまに竜の涙とか直接舐める。


 ああ、あったかいコーヒーがのみたいな。


 そんな願いをかなえるつもりは今のところないから、今日も我が家は天変地異。

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