第2話 ヒミツの趣味

【ヒミツの趣味】(腕、百円均一、時計)


 彼女の右腕には、いつだって時計が巻かれている。

 百円均一に売っていそうな、そして事実売っている色とりどりの時計。

 彼女は月にだいたい550円分くらいの安上がりなおしゃれをして、シャンプーや髪形より時計が変わったことに気づかれると喜ぶ。変わった趣味だと思う。

時計を変えた日の彼女は、だからとても分かりやすく社交的になった。

クラスのみんなに果敢に話しかけて、大げさな身振り手振りで税込み110円を自慢げに誇示している。そして腕時計を指摘されるたびに喜びをはじけさせ、私を見ては腕を振り上げるのだ。私にはどうしても彼女の趣味がよく分からない。


「そいえばさ、なんで右に巻いてるの?」

 昼食時、友人のひとりが彼女にきいた。

 彼女は腕時計のついた方の腕でプチトマトを口に放り込んでいるところだった。今日のトマトは酸っぱいぞ、と思っていたら、彼女は美味しそうに頬をほころばせている。なんだ、つまらない。

「こっちのほうが見やすいんだよ」

 彼女はあっさりとそう答えて、パクパクとおいしそうにお弁当を食べる。

 首をかしげる友人だけど、なんということはない。私は左利きなのだ。


 それから四日後のこと。

 座布団に座って勉強する私の後ろで、彼女が幸せそうな笑みを浮かべている。

 絡まる腕に視線を向けると時刻はもうそろそろ20時になろうとしていた。

「もうこんな時間だね。ごめん、集中してた」

「ほへ?あ、ほんとだぁ。気づかなかったや」

 にこにこと華やぐ笑顔がのぞき込んでくる。新しい腕時計を着けてあげてからずっとそうだ。変わった趣味ではあるけれど、そこがまた愛らしい。

 お泊り会のたびに新しくなる腕時計は、思い出の記録なのだと彼女は言う。

終わったら時間を止めて、大切に保管しているようだ。器にはこだわらないタイプ。単におこずかいが少ないというのも切実な理由だけど。

「お風呂はいろっか。今から沸かすと遅くなっちゃうかな」

「いいよいいよ~」

 まだ湯につかってもないのにふやけている彼女に、私は笑う。彼女のことを言えないくらい、実は私も浮かれている。

 じつは今日からシャンプーを新しくしてみた。

 彼女みたいな、露骨なアピールというやつだ。

 友人たちに気がつかれたらどうなるだろうなんて。

そんな妄想をする私の趣味もまた、彼女にはあまり理解されないけど。

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