第4話 だれだっけ
【あなたはだあれ】(なし)
「えっと・・・どちらさまですか?」
友人だった彼女は怪訝な表情を私に向ける。そしてあいまいに会釈をすると、連れと一緒に足早に去ってしまった。
いじめかなにかだと、直感的にそう思った。
たしかに私はあまり目立つほうじゃない。しゃべるのだって苦手だ。気配が薄いと、小さい頃からずっと言われてきた。だけど、だからってこんな仕打ちはないのに。
―――だけど問題は、いじめだとか無視だとか、そんなものじゃなかった。
「えっと、だれ?」
「ごめん急いでるから」
「誰かに用?え?私?」
「え?あうん、こんにちは。あはは。あー、……ごめん、誰だっけ?」
私の友人の全員が、そろいもそろって私を知らない。
無視をしているとかとぼけているとかじゃなくて、本当に、私のことが全く記憶に残っていないみたいだった。
私を知るはずの人の中から、私のことが、消えている。
それを理解したとき、私はどうしようもなく恐ろしかった。
友人なんてどうでもいい。
もっと大事な人が私にはいる。
私は祈るように恋人へと電話を掛けた。
内気でひとりぼっちだった私を人の輪の中に引っ張ってくれた最愛の人。
遊びに行くときだっていつも彼女と一緒で、彼女がいなかったら会話のひとつもできないほどに、私は彼女に頼っていた。
『もしもし、どうしたの?〇〇』
だから私の名を呼ぶ彼女に私は心から安堵して、こらえきれずに涙があふれた。
うれしかった。彼女だけは、私のことを忘れないでいてくれたんだ。
彼女は、そんな私を訳も分からずに慰めてくれた。
話を聞いて、絶対に忘れないって、約束してくれた。
ほかの誰もが私を忘れても、彼女が覚えていればそれでいい。
電話を切った私は、むしろこの不思議な状況が彼女との繋がりを強く見せてくれたような気さえして、心の底からの笑みを浮かべた。
彼女って、誰だっけ。
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