012 黒騎士を作ってみた

「今から少し人間の国に行こうかと思う。供をせよ」


 玉座の上から、黒い甲冑に身を纏った男に声をかける。


「……どのような件で魔王様は人間の国に赴かれるのでしょうか?」


 フフッいいねぇ……。

 全身黒ずくめの騎士……男のロマンだよ!


「ふむ、気紛れで助けた親子が気になってな……」


 前に魔王城へ来たチビコの様子がちょっとおかしいんだよね。


 最近、チビコと父親が離れてしまった。

 それで10日前くらいからチビコが移動を始めた。

 チビコの傍には誰かがいる。

 たぶん、チビコのお母さんだと思うけど。


 で、5日前に魔国領に入って来た……なんで?

 とりあえず直轄の部下たちには手出し無用と伝えた。


 それで様子見してたらチビコのお母さんが倒れたので魔王城まで運ばせた。

 チビコのお母さんは、魔王の俺を見ると露骨に嫌な顔をする。

 一応、あんたの命の恩人なんだけど……辛い。


「それは先日迷い込んできたチビコ親子のことですか?」


「うむ……どうやら父親が連れていかれたらしい。そのようなことをする輩に何か心当たりはあるか?」


 玉座で足を組んで、肘置きに肘乗せて手の甲の上に顎を乗せる。

 ちょっとダルそうな魔王のポーズの完成だ。

 魔王っぽくてカッコいいだろ?


「盗賊や人さらいとなると、奥方とチビコ殿も連れていかれるはず……となると聖教会の手配かと思われます」


 聖教会か……。

 たしか魔王を絶対悪として魔族、魔物討伐を推進する過激派だっけ?

 まあ、こっちからすれば過激派ってだけで人間にとっては普通の宗教らしいが。


 この世界、聖教会一教らしいんだよね?

 だから、人間あんなに考えが偏ってるのかな?


「であるか……。まあ、一度助けた命だ。もう一度助けるのも一興だろう」


 そう言って椅子から立ち上がって、マントバサッってやる!


 黒騎士も立ち上がって、フルフェイスヘルムのフェイスガードをおろす。


 めっちゃ絵になってる。

 最強の魔王と、その護衛の黒騎士。

 かっこ良すぎる……。


 あれ、エリーとムカ娘とウロ子の溜息が聞こえる?


 半端痴女と、エセドジッ娘と、ビッチウィッチは頬を赤らめているのに。


「なんですかその三文芝居は? 何故、魔王様が人間1人のために動く必要が

あるんですか?」


 エリーたん?


「私はいつもの魔王様がいい……」


「魔王様はどのようにあってもカッコいいですわ」


 味方がムカ娘だけだった……辛い。


「なあ、ム……カイン? お前それでいいのか?」


 半端痴女が黒騎士に尋ねた。


 あっ、たぶん気付いてると思うけど、黒騎士の正体はイケメン勇者な!


 イケメン勇者の名前はムスカ・ランスフィールドだけど、やっぱり裏切りの騎士なら名前はカイン以外考えられないでしょ?


 暗黒騎士ならセシル?

 いやいや、あいつは結局パラディンになっちゃうし、俺は断然カイン派だ!

 色々怒られそうだが、前世の記憶のイメージで名付けさせてもらった。


「ムスカ様、今の方が楽しそうですね……」


 エセドジッ娘が死んだ魚のような眼をしている。

 まあ、聖教会の僧侶としては魔王城にお世話になるってのは微妙だろうな。


「私は今のムスカの方が好きよ!」


 ビッチウィッチは本命がカインと……。

 俺はただのオカズのネタだったらしい……辛い。


「俺はもう勇者ムスカじゃないんだ。カインもしくは黒騎士と呼んでくれ」


 しかし、この男ノリノリである。


 ちなみにこいつが魔王城に来たのが今月の頭な!

 月に一度の聖教会への巡礼の日に逃げ出してきたらしい。


 どうもカインは復活した際に加護を失ったようだ。

 加護を失った勇者というのは立場が微妙らしい。

 魔堕ちもしくは怠惰と呼ばれ、周りから蔑まれる対象となるそうだ。


 そもそもが、騎士や冒険者からの羨望と嫉妬の対象だからなぁ。

 その対象が力を失ったらどうなるかなんて、火を見るよりも明らかですよ。


 まあ、それでも並みの人間よりは強いからね。

 大体が魔国攻略の最前線に立たされて殺される。

 それはもう俺らじゃなくて、国に殺されてるようなもんだと思うけどな。


 3人娘はどうにかして巡礼の日までにカインの加護を取り戻したかったようだ。

 だからあんなに積極的に攻めてきてたのか。


 けど、結局間に合わなくて、3人は決死の覚悟で俺を倒しにきた。

 そんな時にカインにテレパシーでこう言ったんだ。




『今ならお前のために黒騎士のポジションを用意してやろう』




 そしたらめっちゃ顔が輝いた。

 で、カインはこう言ったわけだ。


「俺、別にもう魔王さんの部下でもいいんだけど……」


 3人がすげー喚いてた。

 もうマジうるさいったらないの。

 耳元で3匹のヒナが餌くれってギャースカ叫んでるレベル。


 でもカインには何回か打診してたし、結構魔族とも仲良くなってたからな。

 それにクッキングで美味い飯も奢ってやったし。

 こうなるのは必然だったとも言える。


 でも、やっぱり憧れるのかな?

 裏切りの凄腕騎士……時に人を助け、だがその実は魔王の片腕とか。


 まあ、いいや。

 そんなこんなでカインは俺の配下になった。


 加護もなくて弱いから色々と手を加えた。


 まず装備は黒龍の素材に俺が限界まで付与効果を付けた珠玉の一品だ。

 そして本人にも手の甲と背中に、ステータス上昇効果のある刻印を刻んだ。


 手の甲はアルファベットのKを崩したような刻印。

 背中には龍の翼を模した刻印だ。


 ステータスは倍々ドンで意識すると背中に黒い翼が現れて空を飛べる。


 マジ厨二病全開で魔改造してやった。

 カインは感動の余り、涙まで流して喜んでくれたからやった甲斐があった。


 ちなみにビッチウィッチ情報だと、毎晩鏡の前で手の刻印を発動させたり、

背中の翼を見てニヤニヤしてるらしい。


 そんなに喜んでもらえるとは……。

 今度映像を記録できる鏡とすり替えてやろう。


 3人は勇者の目を覚まさせるという名目でこの城に住んでいる。

 本当の目的はどうなんだろな?


 おっと、話がめっちゃ脱線した。


 でもさぁ、魔王と黒騎士って……やっぱロマンだよなぁ?

 厨二病を刺激される訳で冒頭の三文芝居になっちった。


「あの、そろそろ向かいませんか?」


 黒騎士に言われてハッとなる。


 そうだそうだ、今はチビコの父親の事が優先だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間が俺に石を投げてくる……辛い まっくろえんぴつ @gengrou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ