011 東の魔王がウザくてやっちまった

「魔王様……東の魔王ヒーガ様がお越しです……」


 若干緊張した様子でエリーがそう言った。


 東の魔王?

 誰それ?

 魔王って俺以外にもいるの?


「誰だそいつは?」


 エリーが呆れた様子で溜息を吐いてる。

 いや、だって誰も説明してくれなかったし。

 そもそも俺、ここに転生してきてまだ半年も経ってないからね?

 数百年生きてる君たちと違って、詳しい事情知らないよ?


「なんで知らないんですか?」


「いや、知らんもんは知らんし……」


 エリーが軽く眩暈を起こしてる……大丈夫?

 っていうか呆れすぎると人は眩暈を起こすって、あれ本当だったんだな。


「とりあえずお会いしてください。対応しないと不味いことになりますので」


「えー……めんどくさい……」


 次の瞬間思いっきり睨まれた……。

 エリー怖いよ……。

 最近、エリーの俺に対する扱いが雑になってる気がする。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 とりあえず転移で応接室へと向かう。

 エリーが扉をノックしてから開ける。


「初めまして、俺が魔王クナトだ!」


 どういう力関係か分からないし普段通りいっとこう。


「あっ? おめー、先輩に対してその態度なんだ? なめてんのかコラ!」


 うわぁ……めっちゃ嫌な奴っぽい。

 先輩とか言われても、初めましてだしな……。

 っていうか一応挨拶してんだから、挨拶返せよ。


「うむ、失礼した。この世界の事情に詳しくなくてな……で、何の用件だ?」


 あー、面倒くさいな……。

 俺生まれてまだ半年なんですけど?

 毎日勇者の相手して今度はこんなおっさんの相手かよ。

 もう魔王やめてーわ……。


「てめぇがいつまでも挨拶にこねーから、こっちから会いに来てやったんだ!」


 なにこいつ、ムカつくなぁ……。

 俺の怒りのボルテージがギュンギュン上がってますよ……。


「用件はそれだけか?」


「生意気だなぁ? 先輩が来てんだから酒の一杯も用意できねーのかよ!」


 え、いきなり酒を要求すんの?

 意味が分かんねーこいつ……めんどくせー奴来たな。


 相手するの辛い……。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「てかさぁ、お前んとこの魔族みんな気持ちわりーな……」


 それは同意できるけどね……。

 でも他人に言われると腹立つわ。


「俺んとこはベッピン揃いだぞ! それにメッチャつええから! お前の魔族

なんてうちの幹部一人で瞬コロだぜ? あっマジだからな!」


 飲んだら絡み酒かよ……面倒だなぁ。


「そういや、あいつの名前ってウロ子だっけ? 名前も可愛いけどあいつはいい! なぁ、俺んとこにくれよ!」


 名前可愛いか?

 やっぱこの世界の感覚についていけないわ。


 はあ、こいつヤンキーの先輩みたいな人だな。

 自慢かどうかよく分からんこと言ってくるし。


 うちの面々も、みんな死んだ魚みたいな目してるわ。

 この世界に来てからこんな目よく見るようになったな。


「あの、飲み過ぎでは?」


「俺が酒に酔ってるっていうのか? 俺が酔うわけねーだろ!」


 めっちゃ酔ってますやん……。

 いや会った時からこんな感じで変わってないか。

 どっちにしろ面倒だ。


 連日イケメン勇者のビッチ3人を相手にして精神が削られてるってのに。

 そろそろ忍耐の限界っす。


「大体さー、こいつらの目も気に食わねーなぁ? 雑魚魔族の分際でよぉ!」


 そう言ってヒーガが盃を投げつける。


 それを見た俺の顔色が変わり、部下の顔色も変わった。

 俺は顔面真っ赤に、部下は顔面蒼白に。


「おう、そういう表情もできんじゃねーか? 分かってんならいいんだよ!」


 横で大馬鹿が馬鹿笑いしてる。

 ああ……こいつ殺したいんですけど?


 エリーが必死で目で制止してくるのが分かるけど、そろそろ我慢の限界っす。


「おいっ、あれまずくないか?」


「魔王様……キレてますよね……」


「前魔王様の時の悪夢が蘇ってきた……」


 部下達のひそひそ話が聞こえてくる。




『私たちは大丈夫ですから、どうか……どうか抑えてください……』




 絶倫がテレパシーを飛ばしてくる。


 お前ら器がデカいな……。

 魔王の俺なんかより全然デケーわ……尊敬するわ……。


「今日は俺泊まるわ! おい、ちょっとウロ子貸せよ! どうせお前も毎晩

楽しんでるだろ?」


 ウロ子が顔を真っ赤にしてうつむいている。

 そのウロ子からテレパシーがきた。




『魔王様……私は大丈夫ですから……初めてですけど魔王様のためなら』




 あかん……魔族だからか怒りの沸点が低く……いやこれ誰でもキレるだろ?


「顔真っ赤にしてまんざらでもねぇって感じだなぁ? よく仕込んでんだろうな! クックック色んな意味でよぉ!」


 ――ブチッ!


「ぶぶ漬けでもどうどす?」


「なんだそれ?」


 分かるわけないよな……なら見せてやるよ。


「クッキング!」


 目の前に湯気を上げたお茶漬けが現れる。


「なんだそれ? 美味そうだな! 俺に食わせてくれるのか?」


 ああ、お前にすぐに食わしてやるよ!

 煮えたぎったお茶漬けをなぁ!


「えぇ、俺の故郷の料理でね……これ食ったらとっとと帰れや下種がぁ!」


「魔王様ダメです!」


 俺は全力でヒーガの顔面にお茶漬けを叩き込んでやった!

 ウロ子がなんか言ってたけど関係ないわ……少しスッキリした!


「アチーッ! なんで熱いんだ!? 俺は炎熱耐性マックスなんだぞ!?」


 ヒーガが顔面押さえて転がりまわってる。


「屋上へ行こうぜ……久しぶりにキレちまったよ」


 ヒーガさんよぉ?

 その目は意味が分からないって感じだなぁ?

 お前許さねーよ?


 思いっきり睨み付けて顔面を鷲掴みにすると、そのまま転移する。


「魔王様! 魔王同士の争いは御法度とされているんですよ!」


 エリーが何か言ってた気がするが、今の俺には聞こえねーよ!

 何せキレちまったからな……。


「どこだここ! それにお前……その魔力は!? ヒッ……」


「お前は人ん家で何好き勝手やってんの? 調子のってんじゃねーぞ!」


 久しぶりに、全力の魔力を開放してみた。

 ……なんか前より魔力上がってる気がするな。


 まあ、いいや。

 これで思いっきりぶつけられる。


「いや、確かにちょっと調子乗ってたわ……ほらっ、同じ魔王同士ブヘラッ!」


 思いっきりぶん殴ってやった。

 魔法でもスキルでもない、ただの拳だ。

 うぉーすげー飛んでったなぁ。

 3回くらい跳ねて壁にぶつかったけど、それでも壁が思いっきり凹んでるわ。


「同じ魔王同士? お前みたいな雑魚が俺と同じ魔王だって?」


「ひっ、すまねぇ……まさか勇者も殺せねー奴がそんなにつえーだなんて……」


「おいっ! 敬語使えよ? 雑魚が……口の利き方くらい弁えろ!」


 そう言って転移で目の前に移動すると顔面蹴り上げた。

 すげー高く上がったな……。

 なんか、段々面白くなってきたぞ。


 あっ、あれやってみるか。


「エクスプロージョン!」


 空中でヒーガを中心に大爆発が起こる。


「きたねえ花火だ!」


「魔王様!」


 あっ、エリーたちが来た。


「ヒーガ様は?」


「あそこ!」


 かなり離れたところでボロぞうきんのようになったヒーガがピクピクしてる。


 俺はヒーガの近くに転移すると、ヒーガの頭を掴んだ。

 そしてヒーガの記憶を読み取り、ヒーガの城の居場所を突き止める。


「おいっ! 俺はいつでもお前のところに行けるからな? 分かってるよな?」


 ヒーガの耳元でそう告げると俺はテレポーテーションを発動させる。


 奴を城に送り返してやった!

 かなりスッキリした!

 あー気持ちよかった……やっちまった。


「魔王様、これはとんでもないことですよ! 下手したら大魔王様や他の魔王様に粛正を受けるかもしれませんよ!」


 エリーたんがプンプンだけど、顔がそんなに怒ってない。


 おうっふ!


 すげー柔らかいものが顔に当たった。

 下半身は冷たくて柔らかい帯状のもので締め付けられる。


「魔王様! 正直……すごく嬉しかったです!」


 ウロ子が抱き着いてきた。

 というか、ラミアの抱擁ってガッチリホールドなんやな。

 ……これ絶対抜けられんわ。

 あと気持ち良すぎて、力も入らないし。


「魔王様! まあ、今回は仕方ないですね……」


「これぞ、我が魔王様だモー!」


「ふっ、我が君はやはりこうでないと……」


「吾輩も、このような偉大な魔王様を守れるように精進せねば……」


「いつか妾も……」


 みんなが褒めてくれるのがすごく嬉しかった。


 気持ち悪い面々だけど……。

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