第3話


 屋敷が燃えている。ブウーン、ブウゥーン、そういつもいつも時を知らせていた柱時計も燃え尽きて、おぞましい笑い声がけたたましく周囲をねめつくす。

「とうとう、父様がご乱心だ」

「嫌に冷静な、わざとらしい心配だな」

「いいんだよ、もう人間は失格したようなものだし」

「なんだかなあ」

「へへへっ、健康な身体は憧れだったんだ」

 本来とは異なる性別で育てられたフレイオスの生涯は、あっけないものであった。もとより病弱で、それ故閉じ込められていた側面はあれど気にするほどのものではないはずだったそれは、父の乱心により瓦解した。

 燃えた屋敷に押しつぶされたのだ。丁度久しぶりのこじれた風邪を引いていたのも悪かった。生前愛していた息子も妻も忘れた男はついにはじけた。美術館かと思うほどに高価な品々を飾り立てていた屋敷に火を付け、名誉とともに心中しようとしたらしい。

「まさか我の真名を言い当てるとはな」

「図鑑で見たもの」

 魔族は、名前で縛られる。正確には魔族だけではないのだが、一番影響力が強いのが魔族だ。それ故、「魔王様」とだけ呼ばれていた。しかしその特徴的な見た目により、真名を看破されたのだ。

 黒衣の道化、マルフィス。それが彼の名前である。

「いやあ銀髪縦ロール青肌羊角三白眼ギザ歯巨乳黒ロリータコルセットフリル地獄ピンヒールなんて一発でわかるよ」

「それもそうだな、魔界に帰ったら伝えておこう」

「えーもう少し地上見て回ろうよ、どうせ一つの身体なんだし」

 魔王ともなると、真名看破時の契約でできることの幅はほぼ制限がない。それ故に複数の名前を持つものもいるが、今回は真の名前なので意味がない。

 そして、フレイオスは契約の際に言ってしまったのだ。

「ずっと一緒にいて」

 はたしてそれが恋心か、高い確率で違うのだが小さじ一杯くらいは含まれていそうな願い事。破滅しかしないそれを、心の底から願ったのだ。

 その後の顛末は、だあれも知らない。唯一つ、黒衣の道化に変わって新たな魔王が君臨した。

 その名は漆黒の魂、マルフレスと言った。


fin

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お父さん、銀髪縦ロール青肌羊角三白眼ギザ歯巨乳黒ロリータコルセットフリル地獄ピンヒールの魔王が見えないの 大和田 虎徹 @dokusixyokiti

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